音盤狂日録


あけましておめでとうございます。
旧年中は当「斉諧生音盤志」を御愛読くださり、
誠にありがとうございました。
夏に四周年を、秋に二十万件アクセスを祝うことができましたのも、
ひとえに皆様日頃の御愛顧の賜です。
あらためて御礼を申し上げる次第でございます。
 
昨年の反省は、購入した音盤の大半を、
ちゃんと聴くことのないまま積み上げていたこと。
一昨年までも未聴盤の数は多うございましたが、
昨年の未聴率は、自分自身、恥ずかしくなるほどでした。
 
どの盤も、「音盤狂日録・新譜買得録」を書きながら、
それぞれ少しづつ、聴いてはいるのですが、
「これはこんどちゃんと聴こう」とか
「この曲も音盤が増えてきたから聴き比べたいな」とか
考えつつ、そのままになっていたのです。
 
今年はその点を少しでも改善していきたいと思います。
購入量は減るかと思いますが(笑)、「新譜試聴録」を増やし、
また各種の聴き比べや企画ものを充実させていければと、
計画しております。
 
本年も「斉諧生音盤志」に御愛顧を頂戴できますよう、
また、引き続き御交誼を賜りますよう、お願い申し上げます。  <m(_ _)m>
平成14年 壬午 元旦
斉諧生   

1月31日(木) 

 オリヴィエ・シャルリエ奥田一夫デュオ・リサイタル@センチュリー・オーケストラ・ハウスを聴く。
 奥田氏は大阪センチュリー響の首席コントラバス奏者(氏自身のWebpageは→ここを押して)。楽団の長老格といってもいいだろう人である。
 コンサート中のお話によると、(2、3年前とおっしゃったか)誘う人あってシャルリエ氏のリサイタルを聴き、フランス物の軽妙洒脱、ベートーヴェンの正統男性美、いずれも素晴らしい演奏に魅せられ、以来共演を願ってきたところ、今回実現したとのことである。(他会場の詳細等は→ここを押して)
 ピアノは
児嶋一江さん、クルト・マズアらとの共演で著名な実力派ピアニストである。

今日の曲目は、
ヴィヴァルディ;Vnソナタイ長調(Vn、P、Cb)
フランク;Vnソナタ(Vn、P)
プロト;カルメン幻想曲(Cb、P)
マスネ;タイスの瞑想曲(Vn、P)
ラヴェル;ハバネラ(Vn、P)
ボッテジーニ;大二重協奏曲(Vn、Cb、P)
というもの。
前売2,000円という超お買い得(笑)なコンサート。
 
なんといっても聴きものはフランク
完璧と思えるボウイング、音がよれたりぶれたりすることが全くない。
甘くはないが美しい音色とヴィブラートの使い分け、踏みこみ・重みの付け外しなど、間然とするところ皆無。
フランクのドイツ的な側面に寄ったかと思える剛毅な演奏に、胸の底から揺り動かされるように共感した。
奏者の存在を超えた音楽が鳴り響いた…と感じたのは第4楽章冒頭。
あの「無垢 innocence」を音符にしたような主題が、天から降り注ぐように柔らかい音色で奏でられた瞬間、眼前から他の客もヴァイオリニストもピアニストも消え去って、音楽と直接向き合いたいと、こいねがった。
(これはけっしてシャルリエを貶める謂ではない。)
 
この名曲名演のあとでは、マスネラヴェルはいささか影が薄くなった。
後者の蠱惑的な音色・節回しなど、それだけ聴けばきっと感銘を受けたろうが…。
ヴィヴァルディの透徹した音色から立ちのぼる哀しさ、ボッテジーニの底抜けの明るさなども記録には留めたい。
 
奥田氏のコントラバスも、必ずやその道では名人上手なのだろうと素人耳にも明らかとはいえ、楽器そのものの限界もあって、シャルリエとフランクの芸域には及ばない。
 
盛大な拍手が止まず、用意されていたアンコールバッハ;G線上のアリアに続いて、ボッテジーニの最後の部分が演奏された。
 
11月に京都で聴いたリサイタルでは客席の埋まり具合も芳しからず、ルクー;Vnソナタにも首をひねったが、今回は熱心な聴衆多数が列席する中でフランクの名演が披露され、名手シャルリエにふさわしい夕べとなった。
これで2,000円は安いという以上にもったいないような心地さえする。

1月29日(火) 

 昨日に続き、東京で買物。お茶の水の中古音盤店へ。

若杉弘(指揮)東京都響
マーラー;交響曲第9番ほか(FONTEC)
最近、とんと店頭で見かけなくなった若杉&都響のマーラー全集を中古格安で見つけたので購入。
日本のオーケストラによる、この交響曲の演奏を集めようかと思っており、この全集盤は落とせないところなので、探していたところだった。
ちなみに今手許にあるのは、インバル&日フィル井上道義&新日フィルレナルト&新星日響ムント&京都市響小澤征爾&サイトウ・キネン高関健&群馬響(指揮者のABC順)。
アダージョ交響曲第10番よりをカプリング。
 
ポール・トルトゥリエ(Vc)アルド・チッコリーニ(P)ほか
ショパン;Vcソナタ&ラフマニノフ;Vcソナタほか(EMI)
トルトゥリエの未架蔵CDを購入。これは新品。
もちろんLPでは架蔵しているが、手軽に聴きたいときに、また資料としても必要なので。
以前に一度CD化されているのだが、それは買い損ねたまま、市場から消滅してしまった。
2枚組で、メンデルスゾーン;Vcソナタ第1・2番(Pは愛娘マリア・デ・ラ・パウ)とフォーレ;Vcソナタ第1・2番(Pはエリック・ハイドシェック)をカプリング。

1月28日(月) 所用あって東京へ。本来なら明日の日帰りでも可だが、なんとか都合がついたので、前日から。というのも…

 読売日響第401回定期演奏会@サントリー・ホールを聴く。
 3年前、ラハティ響との来日公演の記憶も新しい、オスモ・ヴァンスカが、シベリウスの後期交響曲を指揮するというので垂涎していたもの。諦めていたのだが、↑のように偶然が重なって、参じることが可能になった。神に感謝。

今日の曲目は、
シベリウス;交響曲第4番
シベリウス;交響曲第5番
シベリウス;交響詩「フィンランディア」
というもの。
交響曲だけで十分かもしれないが…。
 
交響曲第4番は、冒頭の低弦によるffが轟然たる自然音で、まさしくシベリウス! ゾクゾクした。
深い呼吸、変な表情を付けずに真っ直ぐ吹く木管、Vcによる旋律のたゆたい。
なかなかのものと思いつつも、「心理的交響曲」らしくないな…という感じもした。
心理の深淵を孤独に覗き込むというより、熱い思いの丈を展開する趣
第3楽章最後の高揚など、全身を投げ出すかのような指揮ぶりで、実に分厚く盛り上がった。
ベルグルンドケーゲルの演奏に慣れていると「?」なのだが、これはこれで良いのかもしれない。
 
問題だなと思ったのは、オーケストラ。もちろん上手いことは上手いのだが(特に弦合奏)、シベリウスの音楽への共感が不足しているのではないか…と感じられた。
中でもFlの吹奏には疑問符を付ける。悪く言えば音符を音にしているだけのような雰囲気あり。
第4番冒頭のVc独奏も、寂びた音色は佳かったが、もっと剛直な音楽を奏でてもらいたかったところだ。
 
休憩後の交響曲第5番では、この欠点が強く出て、この曲の抒情、「自然」の音化といった趣が損なわれ、「乗り切れない」気分のまま曲が終わってしまった。
両端楽章のコーダで金管が今ひとつ英雄性に欠けたのも残念。まあ第1楽章では指揮者のテンポが速かったせいもあろうが。
 
感心したのはティンパニ。
全曲を通じて厳しい音色が光っていたが、特に第5番終楽章の最終和音の前打音のタイミングの良さ、第1楽章のコーダに突入するfff三連打の打ち抜きには快哉を叫んだ。
 
「フィンランディア」は「ノリノリ」の演奏だったが、後期交響曲のあとでは、こちらは素直に「乗る」わけにいかなかった。
金管は元気良く吹いていたが、その分、前の曲ではセーブしたのか?などと思ってしまうのである。

 まあ、手兵ラハティ響と同じ成果を期待する方が、やはり悪いのだろう。
 山尾敦史氏のWebpageによると、ヴァンスカ自身、ちょっとシベリウスに飽きているのかもしれないフシもある。→ここを押して

 演奏会前の時間を利用して、渋谷の大型音盤店へ。

ディミトリ・ミトロプーロス(指揮)ニューヨーク・フィルほか
チャイコフスキー;交響曲第5番&ショスタコーヴィッチ;交響曲第5番ほか(Sony Classical)
ミトロプーロスのショスタコーヴィッチは、
奥座敷同人工藤さんが、
全ての音が重い意味を持って、聴き手に突き刺さるように響いてくる。
 ただの一瞬も表面的な効果を追いかけることがなく、切実な音楽の流れに無条件に引き込まれてしまう。
 恐い、本当に恐い名演である。
と絶讃されており(→ここを押して)、先頃LPも入手したところ。
このほどギリシャ・ソニーからようやく正規にCD化されたというので、ぜひ東京で買ってこようと思っていたもの。
まさしく工藤さん御指摘のとおりの名演ゆえ、ぜひぜひ広く聴かれてほしい音盤である。
なお、CDの製造はオーストリア。モノラルながら音質も優れている。
標記チャイコフスキーのほか、プロコフィエフ;組曲「キージェ中尉」・P協第3番とともに2枚組。後者は指揮者の弾き振り。
 
ピンカス・スタインバーグ(指揮)オーストリア放送響
ガーシュウィン(ラッセル・ベネット編);交響的絵画「ポーギーとベス」ほか(ORF)
以前、ドラティ&デトロイト響盤(DECCA)でウルウルきてからというもの、目につき次第、購入している曲である。
1991年2月12日のライヴ録音、バーンスタイン;「キャンディード」序曲ルロイ・アンダーソン;名曲集をカプリング。
なお、指揮者の父親ウィリアム・スタインバーグピッツバーグ響と録音していたので(米Command、未CD化)、親子二代、この曲を録音したことになる。
 
エリカ・モリーニ(Vn)フレデリック・ウォルドマン(指揮)ムジカ・エテルナ室内管ほか
モーツァルト;Vn協第4・5番ほか(Arbiter)
エリカ・モリーニ(Vn)フレデリック・ウォルドマン(指揮)ムジカ・エテルナ室内管ほか
ブルッフ;Vn協第1番&ヴィニャフスキ;Vn協第2番ほか(Arbiter)
先だって大全集を購入して感心しなおした、モリーニのライヴ録音を2枚購入。
指揮者ウォルドマンが個人的に録音・保存していたアセテート盤からの復刻とのこと。
アセテート盤独特のサーフェス・ノイズは盛大に入っているが、ヴァイオリン・ソロは美しい音質で録れている。
 
ドミニク・ド・ヴィリアンクール(Vc)パスカル・ヴェロ(指揮)モンテカルロ・フィル
サン・サーンス;Vc協第1・2番ほか(ARION)
以前、渋い渋い音色で奏でたブラームス;Vcソナタ集の佳かったヴィリアンクールに、近年、旧・新星日響東京フィルで素晴らしい成果を挙げているというヴェロが付けたサン・サーンスがあると、Web上の知人から御教示いただいた。
ネット通販でとも思ったが、店頭にあるのを見つけたので購入。
2曲の協奏曲と白鳥に加え、アレグロ・アパッシオナートop.43組曲op.16と、比較的珍しい曲も収めている。
 
相曽賢一朗(Vn、Va)ほか
「カイト・ブランシュ」(Izumi)
先だってリリー・ブーランジェの小品を録音してくれた相曽氏のファースト・アルバム。タイトルは、「白い凧」の意。
氏の公式Webpageのディスコグラフィのページに掲載されているのだが、「完売御礼」とあるので入手を諦めていたところ店頭で発見、ラッキーと購入。
収録曲は多岐にわたり、
クライスラー;ウィーン風小行進曲イザイ;無伴奏Vnソナタ第3番エルガー;愛の挨拶など有名なVn小品のほか、
VaとHpとマリンバという編成で演奏されたバッハ;ヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタ第2番よりアレグロチック・コリア;「アデンダム」といったユニークなものも含まれている。
 
林峰男(Vc)東誠三(P)
Vc小品集(EPSON)
pavaneレーベルから出た無伴奏作品集で黛敏郎;BUNRAKUなどの快演に接していた林氏の小品集が出ていたので購入。
サン・サーンス;白鳥フォーレ;夢のあとに鳥の歌といった有名曲のほか、
ブロッホ;祈りスクリャービン;エチュードop.8-11といった比較的珍しいもの、
シューマン;アダージョとアレグロショパン;序奏と華麗なポロネーズという、やや規模の大きな作品を収める。
 
キム・カシュカシアン(Va)デニス・ラッセル・デイヴィス(指揮)ウィーン放送響ほか
ベリオ;「ヴォーチ」ほか(ECM)
好きなVa奏者、カシュカシアンの新譜が出ていたので購入。
ベリオはあまり聴いたことがないが、シチリア島の民謡の旋律に基づく作品らしいので、ひょっとしたら好きになれるかもしれない(もとになった民謡の録音もCDに収められている)。
Vaと打楽器のための「ナチュラーレ」をカプリング。

1月27日(日) 知人から素晴らしい資料を拝領した。
 吉田隆子『音楽の探求』(理論社、1956年)という古書である。

 小林緑編著『女性作曲家列伝』(平凡社)等によると、吉田は1910年生れ、橋本国彦菅原明朗に作曲を学ぶ。当初サティの音楽に傾倒したが、プロレタリア文化運動に共鳴、社会主義リアリズムに転じた。
 劇作家久保栄とは公私ともにパートナーで、久保の、というより新劇運動の代表作『火山灰地』でも舞台音楽を担当している。
 前後4回にわたって検挙されるが、終始、反ファシズムの姿勢を貫き、獄中で罹った結核性腹膜炎が死病となった。
 戦後、作曲活動を再開し、与謝野晶子の『君死にたまふこと勿かれ』に付曲、更に自作台本により同名の歌劇を作曲するが、未完のまま1956年3月に没する。

 ↑の一書は、吉田が遺した詳細な指示に基づき、1948年に刊行された文集を増補改訂して出版したもの。現品には会葬者へ贈呈する旨の礼状が挟み込まれている。
 この中に『女流作曲家の群れ』と題する短文が収められており(初出;『音楽之友』1954年2月号)、ブーランジェ姉妹が紹介されていることから、知人がわざわざ御寄贈くださったのである。あらためて感謝申し上げたい。
 以下に、リリーに関する記述を全文引用する。

 リリー・ブーランジェは、1893年にパリーで生まれ、1918年に胸をわずらって早逝した作曲家で、ナディアの妹です。多くのフランスの作曲家がそうである様に、パリーのコンセルヴァトワールで、コーサードとヴィダールについて学び、卒業にあたってカンタータ「フォーストとエレーヌ」で、ローマ大賞の試験を受け、その首席を女流作曲家としてはじめてかち得たのでした。(ちなみにドビュッシイは、1884年に「放蕩息子」でローマ大賞を得、ラヴェルは二度この試験を受けたが、二度とも一位にならなかった)そのときには、前にも書いた様に、女にこの大賞をやろうかやるまいかと、古い頭の審査員達はひともめしたとの事でした。しかし惜しい事にそれからすぐ胸の病をわずらって、わずか廿五才で世を去りましたので、その美しいたぐいまれな才能を十分に現す事が出来ませんでした。そしてメーテルリンクの「マレーヌ姫」、交響詩「悲しき夕べに」、「春のあしたに」、カンタータ「太陽への讃歌」、「シレーヌ」、管絃楽のついた二つの詩篇、ヴァイオリンとフリュートのための小曲、絃楽四重奏曲などの遺された作品を、姉ナディアが編さんして世にひろめたのでした。(リリーは、ツェッペリンの爆弾がパリーにおとされている第一次大戦の最中に、ドビュッシイの亡くなったと同年同月−三月に死んで行ったわけです)。

 おそらくパリ音楽院でナディアに学んだ日本人を通じて情報を得たものと思われ、細部には誤りも見られるが、昭和29年の時点でこれだけの紹介が行われていたことには感嘆するほかない。
 姉妹以外ではオルメスシャミナードビーチタイユフェールらが紹介され、次のような言葉で締めくくられている。

これら婦人の先人達がうちひらいてくれた可能性を前にして、この歴史の浅い舞台で、しいたげられ、口をふさがれた同性達の悩みや憤りや、よろこびやかなしみを彼女達にかわって歌わなければならないのではないでしょうか!?

 吉田の主要作は、舞台音楽と声楽曲がほとんどを占めるが、Vnソナタ(1952年)は好きな曲種なので、いちど聴いてみたいと思っている。

 HMVから荷物が届いた。
 昨年10月のセット物半額セールで発注した13点のうち、10点は翌月に納品され、1点は絶版でキャンセル扱い。
このほど発注から90日を経過し、残る2点のうち入荷済みの1点が発送されてきたもの。

エイトール・ヴィラ・ロボス(指揮)フランス国立放送管ほか
自作自演集 (EMI)
LP時代の終り頃、ブラジル風バッハの国内盤(3枚組)が発売された。
初の全曲盤、しかも作曲者自身の指揮ということで、当時、ちょっとした話題になった。
斉諧生も中古か何かで買い求めたのだが、その後、輸入盤は10枚組で他の主要作品も収めていると知り、いつかはそちらをと思い定めた。
CD時代になって枚数こそ6枚に減ったものの、なお高嶺の花で指をくわえていたところ、上記セールでは2,000円強、勇躍オーダーに踏み切った。
交響曲第4番「勝利」
ショーロス第2・5・10・11番
「ブラジルの発見」
P協第5番
等を収録。

 昨日のコンサートを演奏会出没表に追加。


1月26日(土): 

 和波孝禧ヴァイオリン・リサイタル府民ホール「アルティ」を聴く。
 視覚障害者福祉施設改築のためのチャリティ・コンサートということで、満員の客席には福祉団体関係者が多い様子。盲動犬連れの姿も数人(匹)見られた(もちろん訓練されているので、何の問題もない)。

今日の曲目は
モーツァルト;Vnソナタ第25番K.301
ベートーヴェン;Vnソナタ第9番「クロイツェル」
(休憩)
ドヴォルザーク;4つのロマンティックな小品
クライスラー;「ベートーヴェンの主題によるロンディーノ」
クライスラー;「美しきロスマリン」
クライスラー;「前奏曲とアレグロ」
エルガー;「愛の挨拶」
ファリャ(クライスラー編);スペイン舞曲
というもの。前半にソナタ、後半に小品集という、古き佳き時代のスタイルである。
ピアノはいつもどおり土屋美寧子
 
モーツァルトの第1楽章では、まだ硬さが取れていない感じで、VnよりもPの端麗な美しさが目立ったが、第2楽章の短調系の変奏あたりから音楽がツボにはまってきて、安定した伸びやかさが楽しめた。
和波さんの音も、どちらかというと短調よりの音楽に適合しているような気がする。
ベートーヴェンは、いかにも和波さんらしい、誠実に、体ごと、曲にぶつかっていく趣。
第1楽章展開部など力感的な部分では、聴き手も体を動かしたくなるような、胸が熱くなるような、高揚感があった。
ただ、今一歩、踏み外しというか、音楽の枠が綻びるところから立ちのぼる、スケールの大きさを求めたい気がする。
第2楽章など、フレージングがあまりにカッチリと小節線に押し込められていて、いささか感情の羽ばたきを妨げる感があった。もっと深い呼吸で聴きたいと思う。
 
ところが、休憩後の小品では、一変してロマンティックな音楽を繰り広げたのだから、この人の芸術の幅は広い。
まずドヴォルザークの第一音、大きなヴィブラートをかけた、それはそれは暖かい音で鳴ったものだ。
4曲それぞれに音の彩りを違えて、まことに佳い味わいを聴かせた。
クライスラーの3曲ではヴァイオリン音楽の真骨頂ともいえる節回し、とりわけ美しきロスマリンの名人芸には脱帽!
また、「前奏曲とアレグロ」の前奏曲部分は曲自体がバロック風に書かれているので、彼の几帳面さが生きた、一点の非の打ち所ない名演だった。
もちろんエルガーの微笑み、ファリャの情熱も、素晴らしい。
盛んな拍手に応えてアンコールは、
マスネ;タイスの瞑想曲
クロール;バンジョーとヴァイオリン
 
それにしても、どうしてこれだけの名手が
「今の私にとって最大の課題、それはどのようにしてもっとコンサートの機会を増やすかである。」
などと嘆かねばならないのだろうか。→ここを押して
日本のオーケストラは、ぜひ和波さんを招いてブラームスブルッフを演奏すべきだと思う。
彼がこれらの曲で聴かせる音楽は、世界の有名ヴァイオリニストに、けっして優るとも劣らない高みを持つはずだ。

1月24日(木): 

 このページのレイアウト等を変更。以前から、もう少し見やすくしたいと考えていたところ、初めて「スタイルシート」を使ってみたもの。ひょっとしたら無駄な書き方をしているかもしれないが。。。
 あまり難しいことはしていないので、ブラウザ・OS等の仕様差は出ないはずだが、表示が変になるようなことがあれば、御連絡を乞う
 また背景画像を排して薄い背景色を採る。これに伴い、全ページを変更。


1月22日(火): 

 

ピエール・モントゥー(指揮)サンフランシスコ響ほか
ベルリオーズ;幻想交響曲ほか (BMG)
先月からリリースの始まった「RCAレッドシール・ヴィンテージ・コレクション」の新譜を購入。
このシリーズには、疾うに輸入盤で発売されていたものもあるが、世界初CD化等の貴重な音源も含まれており、楽しみである。
モントゥーは「幻想」を前後5回録音しているが、これはその3回目。1950年2月27日、サンフランシスコ戦没者追悼歌劇場で収録されたもの。
LP時代には同じレーベルにミュンシュ&ボストン響という強力盤があって不遇をかこっていた。
宇野功芳師らが推薦していたこともあり、1990年頃に音楽之友社から『レコード芸術 名盤コレクション 蘇る巨匠たち』という限定復刻シリーズでCD化されたときには、飛びついて購入したものだ。
1994年にCD15枚組の『ピエール・モントゥー・エディション』が出たときには、2回目の録音に当たる1945年盤がSPから初復刻された。
これはこれで良かったのだが、年代もあって音質的には不満が残るもので、1950年盤のCD化が待たれていたと言えるだろう。
音友盤と少し聴き比べてみたが、今回の復刻の方が僅かに鮮度が高いようだ。
カプリングはモントゥー唯一の録音となったドビュッシー;交響詩「海」、管弦楽はボストン響
これは上記の『エディション』に含まれており、音質改善が認められるものの、今ひとつ有難味が薄い。
サンフランシスコ響との録音には埋もれているものが多いので、例えばワーグナー;ジークフリート牧歌とかを出してきてもらいたかった。
時間的にこの盤には収まりきらないが、シューマン;交響曲第4番とかフランク;交響曲なども、何とかCD化してほしいもの。
 
ピエール・モントゥー(指揮)アムステルダム・コンセルトヘボウ管ほか
ベルリオーズ;交響曲「イタリアのハロルド」ほか (Audiophile)
コンセルトヘボウでのモントゥーのライヴ録音が出ていたので購入。この曲には他に録音が遺っていないから貴重な音源だ。
1963年11月24日の収録で、独奏Vaはクラース・ブーン
モノラルで、まずまず聴きやすい音質。年代を考えると不満が残るが…。
カプリングはレオポルト・ストコフスキー(指揮)による同じ作曲家の序曲「ローマの謝肉祭」ドビュッシー;牧神の午後への前奏曲。いずれも1951年7月5日の収録。
 
ヘンリク・シェリング(Vn)チャールズ・ライナー(P)
Vn小品集 (BMG)
シェリングがRCAに小品集を録音していたことを迂闊にも知らなかった。曲目的にも興味深く、即購入。
すなわち、
ヴィターリ(シャルリエ編);シャコンヌ
タルティーニ(クライスラー編);悪魔のトリル
を中心に、合計8曲。
概ね1959年1月の録音で、彼は4年後、Mercuryレーベルに同様の小品集を同じピアニストと録音している。

1月21日(月) ようやく昨日の分を書き上げました。m(_ _)m


1月20日(日) この週末、職場の親睦旅行で韓国・ソウルに出かけた。 …というとリッチなようだが、1泊2日の格安ツアー、おそらく国内の温泉旅行よりも費用をかけていないのではないか。(^^;
 2日目は朝から午後3時の集合まで自由時間、まず国立中央博物館で高麗青磁なぞを眺めていたものの(つまり開店前)、その後は事前にWebで当たりを付けておいた音盤屋3店を襲撃。
 駆け足で回ったので、偏っているかもしれないが、見た範囲で印象を記しておく。
 3店舗とも、ソウル最大級の店のはずだが、いずれもさほど大きくはない。東京の大型店舗、例えばタワーレコード渋谷店のワンフロアの更に半分程度か。とはいえクラシック売場は、全体の約3分の1を占めていた。
 輸入盤中心で(日本盤も多数あり)、一部メジャー・レーベルは韓国内でプレスしている模様。レギュラー盤が16,500ウォン程度(邦貨約1,700円)、日本と比べて若干安めだが、一般的な物価水準が約4分の1〜5分の1であることを考えれば、ずいぶん贅沢な商品ということになろう。ものによっては日本での価格と大差ない。
 韓国のオーケストラによる録音があればと思っていたのだが、探せた範囲では見つからなかった。
 韓国人演奏家の棚もつくられていたが、指揮者はチョン・ミュンフンくらい。器楽奏者はチョン・キョンファ、歌手ではスミ・ジョーが大黒柱で、残りは若い女性弦楽器奏者がほとんど。
 韓国国内製作では、"samsung"レーベルなどもあるが質量ともに寂しく、結局、YEDANGレーベルが最大最多の収穫となった。このレーベルは、旧ソ連の放送音源をリリースしており、日本での出口もできていてWebで試聴もできるが、CDの発売はまだ始まっていない。当初、2002年1月と予告されていたのだが、今は「2月下旬販売開始」とアナウンスされている→ここを押して
 現地価格は、@12,000〜13,900ウォンだった(邦貨約1,250〜1,450円)。
 なお、訪れたのは次の3店舗。事前の情報収集で参考になったページは→ここを押して

シンナラ・レコード(地下鉄「新村」駅から徒歩約3分)
駅から北へ少し歩いた交差点の角にタワーレコードが建っている…はずだったのだが、行ってみると名前が変わっていた(苦笑)。クラシック売場は別室扱い、静かで雰囲気のよい店舗だった。
永豊文庫(地下鉄「鐘閣」駅すぐ)
地下鉄の出口に接している、大きな書店の地下2階の一角がCD売場になっている。YEDANGレーベルが最もよく揃っていた。
ミドパ(地下鉄「市廳(庁)」駅から徒歩約5分)
高名なLOTTE百貨店から1ブロック南側の角にあるミドパ百貨店の地下にCD売場がある。かつてのWAVEのような、かなり雑然とした店で、マイナーレーベルが充実していた。

 

まずYEDANGレーベルから。
全点、ゴールドCDである(最近流行らないのは何故だろう?)。
音質はいずれも優秀。
1950年代のものは、さすがに音に少し古さを感じるものの、概ね良好で美しく、愛聴に堪えよう。
 
ルドルフ・バルシャイ(指揮)モスクワ室内管ほか
ハイドン;交響曲第95・100番ほか  (YEDANG)
強靱な合奏力とアグレッシヴな音楽づくりで知られた、このコンビのライヴを是非聴きたいと購入。
第95番は1974年1月18日、第100番は1973年8月9日の録音だが、音質は非常に優れている。
1973年12月22日録音のモーツァルト;ロンド K.382をフィルアップ、ピアニストはアルトゥール・リマとある。
 
エフゲニー・スヴェトラーノフ(指揮)ソビエト国立響
メンデルスゾーン;交響曲第4番&サン・サーンス;交響曲第3番  (YEDANG)
1982年6月9日の録音。
スヴェトラーノフの非・ロシア音楽録音、半分は怖いもの見たさ、半分は異色の名演を期待して購入。
 
ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー(指揮)国立ソビエト文化省響
ブルックナー;交響曲第8番  (YEDANG)
ブルックナー;第8ゆえ購入。果たしてどのような演奏であろうことか…。
1984年4月8日録音、ハース版使用と明記されている。
ちょっと聴こうと思ったところ、トラック「4」が誤って第4楽章途中に打たれていることを発見。国内盤発売時には直しておいてほしいものである。
 
エフゲニー・スヴェトラーノフ(指揮)ソビエト国立響
ワーグナー;序曲・前奏曲集  (YEDANG)
豪快なワーグナー演奏を期待して購入。収録曲は、
「タンホイザー」序曲(1980年12月30日)
「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕前奏曲(1980年12月30日)
「パルジファル」前奏曲(1982年1月26日)
「さまよえるオランダ人」序曲(1981年1月26日)
「ローエングリン」第1幕前奏曲(1987年10月21日)
 
エフゲニー・スヴェトラーノフ(指揮)ソビエト国立響
ワーグナー;管弦楽曲集&ラヴェル;管弦楽曲集  (YEDANG)
ワーグナーとラヴェルという妙な組合せだが、スヴェトラーノフの表現を聴いてみたいという欲求を抑えることは難しい。
ワーグナーは
「ワルキューレの騎行」(1980年12月30日)
「トリスタンとイゾルデ」前奏曲と愛の死(1980年12月30日)
「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第3幕前奏曲(1980年12月30日)
「森のささやき」(1980年12月30日)
ラヴェルは
スペイン狂詩曲(1981年録音とのみ記載)
亡き王女のためのパヴァーヌ(1981年録音とのみ記載)
 
エフゲニー・キーシン(P)ウラディミール・スピヴァコフ(指揮)モスクワ・ヴィルトゥオージ
モーツァルト;P協第12・20番ほか  (YEDANG)
キーシンのモーツァルト;第12番は、スタジオ録音盤(BMG)も優れた演奏であり、ライヴでの感興を聴いてみたいと購入(1984年11月13日)。
第20番は1990年4月12日の録音。
キーシン自作の2つのインヴェンションという小品(各1分程度、1984年5月23日録音)をフィルアップ。
 
ギドン・クレーメル(Vn)ユーリ・バシュメト(指揮)モスクワ・フィルほか
メンデルスゾーン;Vn協 ニ短調&チャイコフスキー;Vn協  (YEDANG)
クレーメルがメンデルスゾーンを!「(彼は)一生この曲を弾かない気がする」と言う人もいたのに!と驚愕して買ったのだが、よく見るとニ短調の方だった(有名なのはホ短調)。
ともあれ、バシュメトが70年代から指揮をしているのも物珍しい(1976年4月11日)。
チャイコフスキーは1970年6月23日録音、付けはFuat Mansurov(指揮)モスクワ放送響
 
レオニード・コーガン(Vn)パーヴェル・コーガン(指揮)ソビエト国立アカデミー響ほか
ブラームス;Vn協ほか  (YEDANG)
コーガンのブラームス、それもライヴとあれば、鬼気迫る緊張感が聴けるのでは…と期待して購入。(1976年5月18日)
カプリングは、ヴィクトル・トレチャコフ(Vn)アレクサンドル・ラザレフ(指揮)ソビエト国立響 ブルッフ;Vn協第1番(1981年3月21日)
 
ムスティスラフ・ロストロポーヴィッチ(Vc)ナタン・ラクリン(指揮)モスクワ・フィルほか
エルガー;Vc協ほか  (YEDANG)
ロストロポーヴィッチのエルガー!これは是非聴いてみたいと購入。(1958年11月28日、モノラル)
カプリングは、既出音源だが、作曲者(指揮)モスクワ・フィル ブリテン;Vc響(1964年3月12日世界初演時の録音、モノラル)
 
ヴィクトル・トレチャコフ(Vn)ユーリ・テミルカーノフ(指揮)ソビエト国立響ほか
ショスタコーヴィッチ;Vn協第1・2番  (YEDANG)
トレチャコフの音源も数々リリースされていたのだが、涙を呑んでショスタコーヴィッチに絞った。
第1番は1981年6月16日の録音。
第2番は1979年12月28日の録音で、マリス・ヤンソンスの指揮(管弦楽は同じ)。ともに「ダヴィド・オイストラフに捧げられた」と注記されている。
なお、工藤さんのページで調べてみると、以前、"Revelation"レーベルで出ていた音源らしい。
(附記)
なんとRevelation盤を架蔵していることが判明。(自滅)
少し聴き比べてみたところ、YEDANG盤の方が、マスターテープに入っている音をしっかり掘り起こしているようだ。
Revelation盤は、テープヒスを消すついでに楽音も丸くしてしまった感じ。(2002/01/22)
 
ムスティスラフ・ロストロポーヴィッチ(Vc)ダヴィド・オイストラフ(指揮)モスクワ国立フィルほか
ショスタコーヴィッチ;Vc協第1・2番ほか  (YEDANG)
ロストロポーヴィッチのショスタコーヴィッチ、しかも指揮はオイストラフ、作曲家への共感に満ちた演奏が期待できるものと購入。
第1番は1965年1月24日、第2番は1967年11月12日の録音。モノラルだが迫真的な音質。
なお、工藤さんのページで調べてみると、第1番は以前、"Russian Disc"や"Revelation"レーベルで出ていた音源らしい。
ガリーナ・ヴィシネフスカヤ(Sop)とロストロポーヴィッチ(P)によるショスタコーヴィッチ;5つの風刺 op.109をフィルアップ。(1967年10月23日)
 
エフゲニー・キーシン(P)ウラディミール・スピヴァコフ(指揮)サンクト・ペテルブルク室内管ほか
ショスタコーヴィッチ;P協第1番ほか  (YEDANG)
既出のライヴ(1986年)とスタジオ録音(BMG、1988年)とも驚異的な完成度と音楽の深さを示すキーシンのショスタコーヴィッチに別なライヴ(1988年12月26日)があるというので、是非ともと購入。
カプリングはヴァレリー・ゲルギエフ(指揮)サンクト・ペテルブルク・アカデミー響とのチャイコフスキー;P協第1番(1987年3月30日)
なお、ジャケット等にはトラック7まであると記載されているが、実際には6つ。ショスタコーヴィッチの第3・4楽章(アタッカで演奏される)がひとまとめになっている。
 
ダヴィド・オイストラフ(Vn)レオニード・コーガン(Vn)キリル・コンドラシン(指揮)ソビエト国立響
プロコフィエフ;Vn協第1・2番ほか  (YEDANG)
プロコフィエフの第1番は好きな曲なので購入。50年代全盛期のオイストラフの独奏にも期待極めて高し。(1953年6月)
第2番はコーガンの独奏で、1956年2月28日録音。
両者の演奏による同じ作曲家の小品をフィルアップ。
 
レオニード・コーガン(Vn)ニーナ・コーガン(P)
ベートーヴェン;Vnソナタ第6・9番  (YEDANG)
コーガンのベートーヴェン、これまた鬼気迫る名演を期待して購入。
ともに1978年の録音で、第6番は12月15日、第9番は同月20日。全曲演奏会の一環だろうか?
 
ダヴィド・オイストラフ(Vn)レフ・オボーリン(P)ほか
ブラームス;Vnソナタ第1番&グリーグ;Vnソナタ第1番ほか  (YEDANG)
オイストラフのライヴ、しかもグリーグは珍しかったはずと思って購入。ともに1957年1月5日の録音。
カプリングはショスタコーヴィッチ;弦楽四重奏曲第3番で、ユリアン・シトコヴェツキー(ドミトリーの父)やルドルフ・バルシャイ(Va)が参加している。
録音データは記載されていないが、メンバーは工藤さんのページに「チャイコフスキー四重奏団」とされている団体と同じなので、同一音源だろうか。それなら1948年録音ということになる。→ここを押して
 
ギドン・クレーメル(Vn)マルタ・アルゲリッチ(P)
バッハ;無伴奏Vnパルティータ第3番&フランク;Vnソナタほか  (YEDANG)
クレーメルのバッハ、またアルゲリッチとのフランク、いずれも聴かずには済まされないものなので購入。
しかもバッハ;シャコンヌ 無伴奏Vnパルティータ第2番よりをカプリング。(1976年6月13日、これのみモノラル)
パルティータ第3番は1974年11月16日、フランクは1989年3月9日の録音。
 
ダニイール・シャフラン(Vc)ヤコブ・フリエール(P)ほか
ラフマニノフ;Vcソナタ&ショスタコーヴィッチ;Vcソナタ  (YEDANG)
フリエールとのラフマニノフは1956年12月6日、作曲者のピアノによるショスタコーヴィッチは1946年11月12日録音とあり、おそらく"Revelation"レーベルで出ていた音源であろうが、ぜひ架蔵しておきたいと購入。
特にラフマニノフについては、かとちぇんこ@Der Nachtwindさんの美しい評がある。→ここを押して
 
ダニイール・シャフラン(Vc)
バッハ;無伴奏Vc組曲第2・3・4・5番  (YEDANG)
シャフランのバッハはLPでも出ているが、未架蔵なので一度聴いてみたいと思っていたところこれが現れたので購入。
第2・4番が1971年9月10日、第3・5番が同年6月10日の録音。この分だと3月10日か12月10日に第1・6番を演奏していたのかも???
冗談はともかく、是非、全曲を発売してほしいもの。
 
以下はYEDANGレーベル以外。
 
ミヒャエル・ギーレン(指揮)南西ドイツ放送響
ブルックナー;交響曲第3番ほか  (hänssler)
これはまだ日本の音盤店には並んでいないのでは!と驚喜して購入。
↓に書いたとおり、ギーレンの新録音は聴き逃せない。
版が問題になる曲だが、「1876/77」と表記されており、ブルックナー自身が1876年12月16日にウィーン・フィルと初演した際のバージョン、いわゆる第2稿ということになる。
1999年5月3〜5日、バーデン・バーデン祝祭劇場での録音。
ワーグナー;「ローエングリン」第1・3幕前奏曲をフィルアップ。
 
サルヴァトーレ・アッカルド(Vn)ブルーノ・カニーノ(P)
ブラームス;Vnソナタ全集  (fone)
おお、この盤は見たことがなかった!と驚喜して購入。
このコンビはモーツァルトも佳かったので、ブラームスにも期待したい。
1997年12月27・28日の録音、スケルツォ F.A.Eソナタをフィルアップ。
 
ヤン・スンウォン(Vc)ムン・イクチョ(P)
コダーイ;Vc作品集  (EMI)
上記のように韓国人弦楽器奏者のCDは、けっこう並んでいたのだが、日本でも売られている有名演奏家のものや曲目的に今ひとつの小品集を除くと、これが残った。
無伴奏Vcソナタ op.8Vcソナタ op.4はもちろん、ソナチネアダージョも収録している。
ヤン・スンウォン(Yang Sung-Won)はソウル生まれ、パリ音楽院やインディアナ大を卒業し、今は韓国国立芸術大学で常勤の教官職にあるとのこと。
生年等は記載されていないが、ずいぶん若い人のようだ。
なお、ピアニスト(原綴Moon Ick-Choo)はカーティス音楽院やインディアナ大を経てジュリアード音楽院に学び、ジョルジュ・シェベックらに師事した人とのこと。
2000年2月、カナダでの録音。

1月17日(木) 久しぶりに中古音盤堂奥座敷のコンテンツがアップされた。奧座敷同人 2001年の5盤である。
 斉諧生のセレクションはかなり苦しいものになってしまっている。あらためて反省。。。
 同人の皆さんの選盤は、いずれも含蓄に富んだもの、どうぞ御参考になさっていただきたい。>読者の皆様

 

ミヒャエル・ギーレン(指揮)南西ドイツ放送響
マーラー;交響曲第7番  (hänssler)
現存の指揮者では聴き逃すことのできない一人、ギーレンの新譜が出ていたので購入。
1993年4月19〜23日、バーデン・バーデンのハンス・ロスバウト・スタジオでの収録、演奏時間計79分半ほどで、1枚に納まっている。
カプリング曲の楽しみがないのは少し残念。
 
アーロン・ロザンド(Vn)クリストフ・ヴァイネケン(指揮)ハノーバー北ドイツ放送フィル
ブルッフ;Vn協第1番&スコットランド幻想曲ほか  (VOX)
アメリカの実力派、ロザンドの新録(2000年12月)が、いきなりバジェット・プライスで登場したのを早速買ってきた。
ブルッフの1番とスコットランド幻想曲、いずれも好きな曲なので嬉しいところ。
同じ作曲家のロマンス イ短調op.42をフィルアップ。
なお、指揮者の姓は原綴"Wyneken"、とりあえず標記のように読んでみた。
オーケストラは大植英次が首席指揮者を勤めている団体、公式Webpageは→ここを押して

1月16日(水): 

 

永井幸枝(P)
フランク;P曲集  (BIS)
愛惜佳曲書にも掲げた前奏曲、フーガと変奏 op.18(イグナツ・フリードマン編)が入っているのも魅力的ながら、
何といってもこのディスクの目玉は、アルフレッド・コルトーが編曲したVnソナタのP独奏版である。
果たしてどのような音楽になっているのか、興味津々。
オリジナルのピアノ曲、前奏曲、アリアと終曲をカプリング。
 
エリク・エリクソン(指揮)オルフェイ・ドレンガル
「カプリース・コンサート」第2集  (BIS)
「合唱の神様」エリクソンの手兵、男声合唱団オルフェイ・ドレンガル(「OD」と略称される)のポップス・コンサートのライヴ録音集成。
1970〜75年の音源から20曲が収められている。
「ホワイト・クリスマス」「私を月まで連れてって」といったスタンダード曲から、何やら怪しげな曲(「スウェーデン風ショパン」など)まで、色とりどりの模様。
音の状態は悪くないが、バランス等はあまりちゃんとしていない。舞台前面中央に据えた固定マイク1本で収録したような感じだ。客席の爆笑も、盛大に入っている。

1月14日(祝): 

 

エリカ・モリーニ(Vn)ほか
エリカ・モリーニの芸術  (Universal)
ウィーンの名花、エリカ・モリーニが米Westminster、米DECCAに遺したLP13枚分をCD11枚に収録した大全集。
モリーニは1904年トリエステ生まれ、現在はイタリアだが当時はハプスブルク帝国の領域だった街である。
ヨアヒムの流れを汲むヴァイオリニストであった父に教えを受け、7歳にしてウィーン音楽院史上初の女子生徒として入学、セヴシック(シェフチク)らの教えを受けた。
神童時代にムックニキシュと共演、長じてフルトヴェングラーをはじめ幾多の巨匠と共演を重ねる。
カザルスが「エリカ・モリーニは音楽の天使である」と評し、フーベルマンは彼女のようにブラームスの協奏曲を演奏できればと願ったものだと述懐した。
ナチスのオーストリア併合に追われてアメリカへ逃れ、その地で活躍し高い人気を保った。1995年にニューヨークで没する。
ヨーロッパからアメリカに渡った多くのヴァイオリニストと異なり、終生、ウィーン古典派の美意識に忠誠を尽くし、グラズノフクライスラーを除いて20世紀作品には手を染めなかったという。
主な収録曲は
バッハ;Vn協第1番
モーツァルト;Vn協第4番(以上ニコラス・ハルショーニィ(指揮)プリンストン室内管)
バッハ;Vn協第2番
モーツァルト;Vn協第5番(以上フレデリック・ウォルドマン(指揮)ムジカ・エテルナ室内管)
ブラームス;Vn協
チャイコフスキー;Vn協(以上アルトゥール・ロジンスキ(指揮)ロイヤル・フィル)
タルティーニ;Vnソナタ「悪魔のトリル」
ブラームス;Vnソナタ第2・3番(以上レオン・ポマーズ(P))
モーツァルト;Vnソナタ K.296・K.481
ベートーヴェン;Vnソナタ第3・5・7・8番
ブラームス;Vnソナタ第3番
フランク;Vnソナタ(以上ルドルフ・フィルクスニー(P))
その他各種小品とともに、
モーツァルト;弦楽四重奏曲第23番
ベートーヴェン;弦楽四重奏曲第4番
を収めているのが目を惹く。第1Vnは勿論彼女だが、
フェリックス・ガリミール(第2Vn)
ワルター・トランプラー(Va)
ラースロー・ヴァルガ(Vc)
という豪華メンバーなのだ。
このうちブラームスチャイコフスキーの協奏曲録音は有名で、先だってもDGGのWestminster覆刻の1枚としてリリースされている。
それ以外は、かなりの曲が世界初CD化の音源で、一昨年にこのセットが発売されたときから垂涎していた。聴かれた人からも高い評価の声が聞こえてくる。
とはいえ値の張る箱物ゆえ、せめてフランクあたりが単売されれば…と願っていたが、一向にその気配がない。
しかもWestminster音源の権利がまた移動してDGGに移った。これでは、そのうち入手できなくなるかもしれないと思っていたところ、ちょうどまとまった額の商品券を頂戴した。
一部の音盤店でも使えるというので、好機到来、購入に踏み切ったもの。
なお、LP期の彼女の正規録音としては、他に
バッハ;2Vn協(共演はナタン・ミルシテイン、EMI)
モーツァルト;Vn協第5番(パブロ・カザルス(指揮)ペルピニャン音楽祭管、Sony Classical)
モーツァルト;Vn協第5番(ジョージ・セル(指揮)フランス国立放送管、Sony Classical)
ブルッフ;Vn協第1番&グラズノフ;Vn協(フェレンツ・フリッチャイ(指揮)ベルリン放送響、DGG)
などがある。

 ↓12日に完結したパーヴォ・ベリルンドのシベリウスは、どの演奏を選ぶかのページを独立させた。
 これに伴い、シベリウス;交響曲第4番 聴き比べのページに、ベリルンドの残り2盤とオーマンディ盤の記事を追加、愛惜佳曲書での推薦盤を入れ替えた。
 また、年賀の画像と御挨拶を削った。


1月12日(土): 

 「パーヴォ・ベリルンド(ベルグルンド)のシベリウスは、どの演奏を選ぶか」最終回
 昨年10月14日に始めたシリーズが、ようやく7曲目、第4番を迎えた。全集より早くにフィンランド放送響盤があり、計4枚。  
 この曲については、以前、ヘルベルト・ケーゲル盤(Berlin Classics)を中古音盤堂奥座敷で論じたことがあり、そのときに比較試聴した記録をまとめている。(→ここを押して)
 作曲家は、この曲を「心理的交響曲」と呼んだという。
 その真意が那辺にあるのか定かではないが、1908年に喉の腫瘍(ガンであったとも言う)を除去する手術のあと、死の影に脅かされながら作曲された(1910〜11年)、とするのが一般的な解釈である。
 第1楽章冒頭に現れる C-D-Fis 、「三全音」(全音3つ分の音程)の動機が、全曲の核となっている。これによって調性感が曖昧になった上、シンコペーションを多用するなどしてリズムも曖昧に、また主題の断片化、再現部の縮小、唐突な楽章終止などによって構成も曖昧になっている。
 ポール・グリフィスも、

シベリウスの第四交響曲は、調性を崩壊させるような音程としての三全音に関する研究ともいえる作品であったが、しかし彼は、それ以上に新しい領域へ進もうとはしなかった。

と書いているそうである(石田一志訳『現代音楽小史』音楽之友社)。
 このあたりが「晦渋」とされる所以であろうが、セシル・グレイという音楽学者が

スコアには終始、余分な音符が一つもなく、形式はシベリウスの作品の発展の上で一つの道標となるものである。そして、この曲は官能に訴えるところが全然ないから、通俗曲にはならないだろうが、少数の人々にとっては、シベリウスの最も偉大な作品となるであろう。彼はおそらく、これ以上のものを書かなかった。

と書いて以来、俄然、シベリウスの交響曲の最高傑作とみなされることになった。
 楽譜上の問題が一つある。
 第4楽章に"Glocken"(鐘、チューブラー・ベル)が指定されているが、実際の演奏では"Glockenspiel"(鉄琴)が用いられることが多く、作曲者もそれを認めて、後年、"Glocken"の後に"sp."を書き足した。
 ところが、「やはりシベリウスはチューブラー・ベルを望んでいた」とする証言もあり、その扱いは指揮者によって様々である。全面的にチューブラー・ベルを使うもの、一部でチューブラー・ベルを使うもの、チューブラー・ベルと鉄琴を重ねるもの等々…。
 概ねフィンランドの指揮者は鉄琴派のようで、ベリルンドも一貫して鉄琴のみを用いている。

ベリルンドによる4回の録音は前後27年間、指揮者の年齢にして39〜66歳にわたっているが、驚くべきことに、いずれの演奏も、それぞれ特色を持つ素晴らしいものだ。
 
フィンランド放送響盤 (英DECCA、LP) (1968年5月)
架蔵盤は英盤LPだが、FINLANDIAからCD化されている。
この曲の聴きどころの一つが、第1楽章冒頭の独奏Vcパートである。
以前、フィンランドのオーケストラの来日公演でこの曲が演奏されたときのこと、首席Vc奏者は、いつもの演奏旅行では万一の事故を慮って使わない銘器を、わざわざ持参したという。フィンランドのVc奏者にとっては、非常に大事なソロとされているのだそうだ。
4盤とも入魂の演奏が聴けるが、最も斉諧生の好みに近いのが、この盤。塩辛い音と色気を排した音楽が剛毅である。特にスコア(Breitkopfのミニチュア・スコア、以下同じ。)6頁、練習番号Eで、音がどんどん張り出してくる、エネルギーの横溢には快哉を叫びたい。
思うに、エネルギーと緊張感に満ちた骨太の音楽、一言でいえば「雄渾」が、この盤の特長であろう。
第1楽章後半(スコア9頁)でも、Vaパートに付されたクレッシェンド・デクレッシェンドを強調して木管を抑え、緊張感を作り出す。
第2楽章は、前半のスケルツォ的な楽想と後半の厳しさの対比が印象的に書かれている音楽。
ベリルンドは、後半で頻出する rfz ないし fp の指定を強め強めに演奏し、音楽に強靱さを与えている。
印象的なFlのソロで始まる第3楽章では、木管の清澄さが冴え、弦合奏はボディのしっかりした音で熱く語る。
特に楽章終わりのクライマックス(スコア36頁下段)では大きくテンポを落として、がっしりと歌い、ffを指定されたTrbは4盤中、最も激烈な吹奏を聴かせる。
その一方、スコア32頁下段のVn群の p 指定の楽句の清らかな美しさには言葉を失うし、33頁中段で出る独奏Vcも佳い。
この曲で第4楽章がこれだけ力強く響くのも珍しいだろう。
スコア63頁のHrnの英雄的なこと!
他方、前の楽章同様、スコア56頁下段から57頁上段にかけて、Vn群が dolce で奏する澄明な旋律美は、北欧の抒情そのものである。
 
ボーンマス響盤 (Disky) (1975年6月)
ここまでの6曲については、積極的にボーンマス響盤を推せるものがなく、乱暴な言い方をすれば、この全集の存在意義は無くなったのではないかと考えていた。
ところが、この第4番については、堂々、他の全集盤に伍せる特長がある。オーケストラの出来も格段に良い。
4盤の中では最も演奏時間が長く、全体にゆったりしたテンポで、心理の深淵にたたずむような味わいがある。「沈潜」と評せよう。
37分26秒を要しているが(CDプレーヤーでの実測。以下同じ)、これに対し最短のヨーロッパ室内管盤は33分06秒。
第1楽章の終結近いクライマックス(スコア10〜11頁)において、遅いテンポの上に雄大な金管の吹奏とTimpの連打が築かれる部分が好例である。
第2楽章も遅めのテンポで始まり、スケルツォ的な印象は薄い。
この楽章では後半(スコア22頁、練習番号I)から加速し、曲想の転換を導く。
また、第4楽章半ば(スコア47頁)では、練習番号Fから減速し、念を押すような効果が目覚ましい。
オーケストラも、目立って上手いソロや性格的な特徴はないが、充実した出来映え。
例えば、第3楽章冒頭のFlや第4楽章終結手前のTrpからTrbへ受け渡される ff の動機など。
弦合奏の響きもしっかりしており、他の6曲での演奏からは一段上のレベルにあると言える。
 
ヘルシンキ・フィル盤 (EMI) (1984年2月)
弦合奏をはじめ、ちょっとかすれたような硬質の音色から、厳しさを前面に出した音楽がひろがる。
この音色から連想したのは、夜明け前、闇が最も深いときに吹いてくる風。
第1楽章冒頭の独奏Vcも抑制をきかせた辛口の表情。
rfz や、金管などによく見られる「〜ズバッ」という音型は、4盤中、最も鋭く決められている。
第2楽章、木管の rfz(rffz) は、Flの呼気音までが加わって、更に鋭く響く(スコア24頁下段など)。
木管群も、華麗さとは程遠い、渋めの音色を持つ。
第3楽章冒頭のFl独奏も、淋しく、暗い。それに続くFgもまた、寂のきいた音色である。
この曲の中心は第3楽章にあり、その中でも弦合奏に主題が全容をあらわすところ(スコア34頁下段から35頁上段)が、全曲最大のクライマックスといえる。
ここを導くObの力強い音と、弦合奏の勁烈な響きは、この演奏の厳しさを象徴するものだ。
それに続く楽章最後の高揚(スコア36頁下段)も、弦合奏中心に盛り上がり、fz の切れ味も随一。
第4楽章でも厚みのある音楽が素晴らしい。
それに負けまいと強打したせいだろうか、クライマックスでグロッケンシュピールの音が割れてしまうのは残念。
4盤中、この曲の「森厳」な側面を最も強調した演奏であろう。
 
ヨーロッパ室内管盤 (FINLANDIA) (1995年9月)
ヘルシンキ・フィル盤から約10年を経て、ベリルンドの「第4番」観は大きく変化したのであろうか。
ここで聴ける音は、明るく、暖かい。
第1楽章冒頭、Fg・Vc・Cbによる三全音の動機も、これまで3盤の「ゥッ」という自然音ではなく、「ン」という美しい和音である。
この全集の他の曲と同じく、弦合奏は、バランスが明快で和声は美しさの極み
弦の各部が絡みながら上昇していく部分の感動的なこと!
Spitze 指定の音型(スコア5頁下段・13頁上段)で、たゆたう味わいは3盤ともに佳いが、やはりこの盤が随一。
また、スコア7頁中下段漸強弱の付け方も、最も堂に入ったもので、ベリルンドの解釈が練り上げられていることを証している。
明るいとはいっても、賑やかなのではない。
スコア6頁で出る独奏Vcなど、孤独な歩みを実感させる。
第2楽章では、第2主題が弦に出たあと、金管から木管に動機が受け渡される部分の呼吸、それに続く弦合奏の絡みの呼吸、いずれも素晴らしい。
このオーケストラでは、いつもObに苦言を呈してきたが、第2楽章冒頭の独奏は、諧謔味を湛えて、なかなか佳い。
後半では雰囲気が一変して悲劇性を表出、楽章を締めくくるTimpの乾いた響きも、聴き手の胸を締めつける。
明るい寂しさ」を最も感じさせるのが第3楽章
Vcに主題が切れ切れに現れる部分では、寂しさが横溢している。
もちろん、冒頭のFl独奏やClの一節も絶妙。前者は名手ジャック・ズーンの笛かもしれない。
上記のように、この楽章で弦合奏が主題の全容を奏する箇所が全曲の中心である。
楽譜上のダイナミクス指定が、mf からクレッシェンドして f に至る( ff ではない)ことを重んじたのだろう、まことに清らかな響き。
このとき木管には鐘を連打するような音型が現れる。こういうところがシベリウスの「毒」なので、この演奏のようにはっきりと聴こえてほしい。
更に続く高揚部分でも、Timpの打撃がくっきりと奥深く、凄惨な響きを演出する。
第4楽章も小編成が生きて、Hrnのモチーフなどが効果を挙げている。
グロッケンシュピールの響きも最も美しく、裏を吹くClの音型がきちんと聴こえるのも嬉しい。
雄々しさ、暗さ、厳しさは後退しているが、この清明にして寂寥を蔵した音楽、「清寂」の境地は、ベリルンドの到達点として讃えたい。
冒頭に書いたように、4盤それぞれが特色のある素晴らしい演奏で、甲乙つけがたい。
フィンランド放送響盤の「雄渾」
ボーンマス響盤の「沈潜」
ヘルシンキ・フィル盤の「森厳」
ヨーロッパ室内管盤の「清寂」
 
この曲を愛する人にはすべてを聴いていただきたいのだが、あえて、あえて1枚に絞るとすればヘルシンキ・フィル盤を挙げる
ただ、この方向性にはヘルベルト・ケーゲル盤(Berlin Classics)という超名演が存在するのが気になる。
ケーゲル盤と併せ聴くのであれば、方向性の異なるヨーロッパ室内管盤に指を屈したい。
比較試聴1点。
ユージン・オーマンディ(指揮)フィラデルフィア管
シベリウス;交響曲第4番  (BMG)
1978年3月の録音。このコンビにはモノラル期LP(1954年録音)もあり、再録音に当たる。
さぞ華麗で脳天気な音楽だろうと余分な先入観を抱いたのは、大きな間違いだった。
冒頭の低弦の響きの剛直なこと!
特にCbパートの上手さは感動的。これだけの鋭いディミヌエンドは滅多に聴けない。
全曲を通じて、華麗どころか、重く渋い響きを聴かせる。
もちろん、第1楽章のVc、第2楽章のOb、第3楽章のFlなど、それぞれ独奏は流石の腕前、ソリスト級の音楽を聴かせる。
特徴的なのは第2楽章前半のテンポが遅いこと。この圧迫する音楽は、"vivace"からは程遠い。
おそらく楽章後半の暗く厳しい雰囲気に合わせたものだろう。こういう解釈も面白い。
ただ、ベリルンドケーゲルの演奏に馴染んでいる斉諧生にとっては、今一歩の感なきにしもあらず。
「あ、そこ、もうちょっと突っ込んで!」と言いたくなる箇所が頻発する。
音楽の輪郭が滲んでいるというか、わずかに曖昧というか、求心力・凝集力の点で物足りないのである。
問題となる第4楽章の"Glocken"の扱いが、また面白い。
基本的には鉄琴を用いるのだが、クライマックス(スコア53〜54頁、二分音符で書かれている部分)のみ、チューブラー・ベルを叩かせている。
1955年、北欧演奏旅行の途次、シベリウス本人に面会した際の直話に基づく処理という。
なお、斉諧生的には、鉄琴で一貫させるのが好み。特にベリルンド&ヨーロッパ室内管のような響かせ方が望ましい。

1月10日(木): 

 

シュザンヌ・ラモン(Vc) 管弦楽団
エルガー;Vc協  (Arkes)
このチェリストについては、12月29日の項にバッハブラームスなど3点が届いたことを記したが、追いかけるように御本人の名前でメールが来た(おそらくマネジメントの代筆であろう)。
斉諧生がまったく駄目なフランス語だったのだが、翻訳サイトを活用して読んでみると、大意次の如し。
遠い日本から3枚も買ってくれてありがとう。非売品のエルガー;チェロ協奏曲のCDを送ります。
それが本日到着した。指揮者・オーケストラ名は明記されていない。
1992年、テレビで放映されたライヴの音声をCD化したとのことで、聴いてみると、チェロが前面にクローズアップされ、管弦楽はモノラル収録でやや歪みっぽい。

1月9日(水): 

 ↑の御挨拶を掲げておくのがチト恥ずかしいような気もする…(自滅)。

ルドルフ・バルシャイ(指揮)ケルン放送響
ショスタコーヴィッチ;交響曲全集(BRILLIANT)
交響曲第14番を初演したり弦楽四重奏曲第8番を弦楽合奏用に編曲したり、ショスタコーヴィッチとの関わりが深かったバルシャイだが、交響曲の録音は比較的珍しかった。一般的なディスクに限れば、第1・9番(CBC)、第4番(DHM)、第7番(BIS)、第14番(Victor)くらいだろう。
しかし演奏の水準・内容には定評があるところで、今回、突如として全集が、いきなりバジェット・プライス(11枚組で約3,500円)でリリースされたからには買わざるべからず。
なぜかHMV以外の店では取り扱っていないか僅かしか入荷しなかったかで、京都では手に入らず、大阪・心斎橋のHMVまで出かけて購入。
1994〜96年頃を中心に、最も古い第7番で1992年、新しい第13・14番が2000年の収録、しかもライヴではない模様だ。
 
キリル・コンドラシン(指揮)モスクワ・フィル
ショスタコーヴィッチ;交響曲第9・15番(BMG)
契約上の問題で入手しにくくなったコンドラシンのショスタコーヴィッチ全集のうち何枚かがワゴン・セールで安く出ており、好きな第15番を購入。
第9番が1965年、第15番が1974年の録音とある。
 
ライムント・リッシー(Vn)ジャン・レイサム・ケーニック(P)ほか
アーン;Vn曲集(KOCH)
最近、関心を持っているレイナルド・アーンのVn曲集のCDを見つけ、しめしめと購入。
収録曲は多岐にわたっている。
Vnソナタ ハ長調
ロマンス
ノクチュルヌ(以上はオリジナルなVnとPのための作品)
愛の歌(これはVn協第2楽章の編曲)
ロマネスク(Va・Fl・Pのための作品、リッシーはVa持替)
更に、「恍惚のとき」「我が詩に翼ありせば」等、5つの歌曲をVnで奏している。
ヴァイオリニストは、ウィーン・フィルの第2Vn首席奏者で、昨秋の来日公演にも加わっていたようだ。→ここを押して
また、ピアニストは指揮者としても活動している人物。→ここを押して
 
ムスティスラフ・ロストロポーヴィッチ(Vc)
バッハ;無伴奏Vc組曲(全曲)(EMI)
ようやくロストロポーヴィッチのバッハを購入。
新譜のときには、もうVcの腕は鈍っているだろう(失礼!)と思って見送り、いざ評判になってみるとレギュラープライス2枚分の値段に二の足を踏んで、ずっと買いそびれていたもの。
音盤店のポイントが貯まったのと割安の値付けのセットが見つかったのと音盤店の10%引きセールが重なったのとを機に、懸案を果たした。

1月8日(火): 

 

フィリップ・アントルモン(指揮)オランダ室内管
オネゲル;交響曲第2番&ルーセル;シンフォニエッタほか(VANGUARD)
昨日寄った中古CD市を再訪し、もう1枚購入。
曲目が興味深い。標記2曲のほか
ミヨー;世界の創造
イベール;ディヴェルティメント
という、フランス近代好きにはこたえられないラインナップだ。
この組合せならきっと架蔵済みだろうと思い昨日は買わなかったのだが、帰宅して調べてみたら、あにはからんや、棚に無かったので、出直すことになった。(苦笑)
1994年の録音。
 
ルノー・カプソン(Vn)ゴーティエ・カプソン(Vc)フランク・ブラレイ(P)
ラヴェル;Pトリオ・Vnソナタ・Vn&Vcソナタほか(Virgin)
以前出たシューベルトハーディングとのフランス曲集が、なかなか佳かったカプソンの新譜が出ていたので購入。
演奏者の紹介がブックレットに掲載されていないが、チェリストは姓から見てヴァイオリニストの弟か縁者だろうか。
ピアニストは、昨秋、プラッソン&トゥールーズ・キャピトル管の来日公演に帯同したフランスの若手注目株(『レコード芸術』2001年6月号にインタビュー掲載)。1991年のエリーザベト王妃国際コンクール優勝者とのこと。
Vnソナタ(1897年)をフィルアップ。よく「遺作」と表記されるが、作曲者22歳、パリ音楽院在学中の若書きである。
 
辻井淳(Vn)藤井由美(P)
Vn小品集vol.3(イソダ)
 
辻井淳(Vn)藤井由美(P)
Vn小品集vol.4(イソダ)
以前京都市響のコンサートマスターを務めておられた辻井さんの自主製作盤を2点、購入。
この人の音楽には独特の気品と懐かしさがある。
既に小品集第1・2集とバッハ;無伴奏Vnソナタ&パルティータを架蔵しているが、先だって第4集完成とのお知らせ(メール)を頂戴した。
以来、地元の音盤屋の店頭に気をつけていたのだが、いつまでたっても入荷しないので、同様に入手し損ねていた第3集ともども客注したもの。
 
第3集は、
タルティーニ(クライスラー編);悪魔のトリル
ヴィニャフスキ;創作主題による変奏曲
シューベルト(エルンスト編);魔王
サラサーテ;バスク奇想曲&アンダルシアのロマンス
バルトーク;ルーマニア民俗舞曲
など、ヴァイオリニストの手になる作品を中心に10曲を収録。
 
第4集は、
ヴィターリ;シャコンヌ
ベートーヴェン;ロマンス第2番
クライスラー;愛の喜び&愛の悲しみ
サラサーテ;ツィゴイネルワイゼン
など、錚々たる有名小品ばかり、10曲を収録。

1月7日(月): 

 

サルヴァトーレ・アッカルド(Vn)カルロ・マリア・ジュリーニ(指揮)ミラノ・スカラ座フィル
ベートーヴェン;Vn協・ロマンス第1・2番(Sony Classical)
ふと立ち寄った中古CD市で、興味を惹かれた盤を購入。
1998年に引退を表明したジュリーニだが、晩年にこのオーケストラとベートーヴェン;交響曲全集を録音していた。世評は芳しくなく、最近は音盤屋で見ることも少ないが、彼の晩年の芸術を非常に高く評価する人もいるので気になっていた。
そのシリーズの一環としてか、1992年に録音されたもの。
この曲についてジュリーニは、アナログ末期にパールマン盤(EMI)でフィルハーモニア管と気合いの入った名演奏を遺している。
再録音でどんな音楽を振っているのか、またアッカルドの美音にも期待して、買ってみた。
実を言うと、このCDが出たことすら記憶していなかった。もちろん国内盤も発売されていたのだが…。(汗)

1月6日(日): 

 1月更新分から、ちょっと色づかいを変えてみた。演奏者名・団体名作曲者名・曲名で統一しようという趣旨。
 また、↓12月29日の記事で、演奏者名の表記を訂正。


1月5日(土): 

 「パーヴォ・ベリルンド(ベルグルンド)のシベリウスは、どの演奏を選ぶか」第6回
 
 旧年中に全曲を終わらせる予定だったが、ようやく6曲目、第2番を。この曲も全集盤3点のみ。
 何といってもシベリウスの交響曲中、最も有名であり最も演奏される曲。録音も膨大にあると思われる。先頃没した朝比奈隆もレパートリーに加えていたし、ポール・パレーの録音も存在する。→ここを押して
 一般的には、作曲当時(1901年)、ロシアの専制支配下にあったフィンランドにおける愛国的心情、ナショナリズムの(来るべき)勝利を謳歌した曲であるという、標題的な解釈が行われている。
 演奏会においても、終楽章のコーダでは金管群の圧倒的な吹奏が高揚の上にも高揚して、拍手大喝采…というのが、お約束だ。
 第1楽章がソナタ形式ながら比較的軽いつくりになっている(演奏時間も短い)点や、第3楽章から切れ目なしに第4楽章に突入して勝利の讃歌が全容をあらわすというベートーヴェン;運命交響曲そっくりな点が、こうした楽曲把握を裏付けていると言えるだろう。

 昔々、『音楽現代』誌上で、宇野功芳師と故・福永陽一郎氏の対談による音盤選びが連載されており、この曲が取り上げられたことを記憶している。
 宇野師が、
    「この曲は、どう聴けばいいのかわからない
とこぼしたのに対し、福永氏が
    「『フィンランディア』と同じですよ
と応えていた。これも、上記のような解釈から出る言葉だろう。
 なお、推薦盤は、宇野師がモントゥー(DECCA)、福永氏がバーンスタイン(Sony Classical)だったように記憶しているが、少々自信がない。この対談シリーズの単行本化を望みたいところだ。

 従来、斉諧生も基本的にはそのような捉え方をしてきた。
 ところが今回、ベリルンドの録音を聴いて、ちょっと考え直さなければいけないかもしれないと思っている。
 彼の音盤は3点とも、終結で金管が壮麗かつ圧倒的な吹奏を聴かせる…ということはない。一緒に盛り上がるはずのTimpも、ごくごく控えめにしか聴こえてこない。
 この曲からは、「『フィンランディア』と同じ」ではない、もっと複雑な、精神的なものが聴き取れるのではないか。
 これからも、いろいろな演奏を聴きながら、考えていきたい。

さて、ベリルンドの解釈自体には、3盤を通じて、さほど大きな変化はない。
もちろん少しづつ練られていった跡は見えるが、他の曲で聴かれたような次元の違いや落差は感じなかった。
そのため、オーケストラに固有のサウンドの違いが前面に出ることになる。
 
ボーンマス響盤 (Disky) (1976年11月)
これまでいつも最下位に甘んじてきたボーンマス響盤だが、この曲の出来はよい
演奏時間はこれが最も長く(CDプレーヤーの表示で45分02秒)、全体に大きく構え、悠然とした味わいが優れている。
例えば、第1楽章で第1主題の提示から推移していくところで4分の6拍子から4分の4拍子に変わるが( Breitkopf 版ミニチュア・スコアで5頁下段。以下同じ)、ここでテンポを落とし、ゆったりした音楽に変化させる。
同時に「付点二分音符=二分音符」の指定もあるので、譜面の処理としてはその必要がないはずだが、これはこれで、いい味わいだ。
第2楽章冒頭で主題を吹くFgやそれを受けるHrnの、やや重い、引きずり気味のリズムも佳い。この旋律から受ける一般的なイメージを最も良く具現化した響きだろう。
楽章終わり近くに嵐が吹くが、その手前の静かな歌(スコア62頁)も素晴らしく、終結の思い入れにも熱いものがある。
 
欠点としては、演奏の問題か録音の問題か、木管合奏がくっきりしないこと。
特にFlは非常に聴こえにくい。シベリウスの音楽の醍醐味の一つは、Flの清澄な音色から人間くささを超越した境地が響いてくることであるから、これは痛い。
また、ボーンマス響盤の通弊だが、弦合奏の音色が今ひとつ磨かれていないこと、Trpの音色に楽器くささが残っていることを、ここでも指摘せざるを得ない。
 
なお、第4楽章の終わり(スコアの最後の2頁)で、Timpのパートに変更を加えている。
楽譜では ff で「ニ音」を叩き続けるように書かれているが、ここでは音を上下させている。斉諧生の聴音能力が低いので断言しかねるが、TubaとCbの動きに重ねて、「ニ音」とオクターブ下の「に音」を交互に叩かせているようだ。
もっとも、音量は抑え目にしているので、あまり目立たない。
 
ヘルシンキ・フィル盤 (EMI) (1986年12月)
ボーンマス響盤に比べ、演奏時間がかなり短い。CDプレーヤーの表示で39分58秒、両端楽章で約1分、第2楽章では2分半ほどの差がある。
 
全体に凝集した響きが素晴らしい。
特に木管・金管の音色感については、この盤が最も抵抗無く聴ける
Flの清澄さ、Obの寂び。金管はメタリックに陥らない渋い響き。
弦合奏もヨーロッパ室内管盤に迫る精度であり、第3楽章で1回目のトリオが終わった直後(スコア82〜82頁)での響きは、楽器を離れ、自然が発する音のようだ。
 
第4楽章終結のスコア2頁分では、↑に書いたようにTimpがほとんど聴こえず、最後の4小節のロール打ちのみ、かろうじて聴き取ることができる。この処理は興味深い。
 
ヨーロッパ室内管盤 (FINLANDIA) (1997年10月)
CDプレーヤーが表示する時間は、やや延びて41分32秒。
演奏の基本はヘルシンキ・フィル盤と酷似しているが、細部に一層磨き上げられた表現が見られ、ハッとさせられる瞬間が多い。
例えば、第1楽章で木管群による主題提示が終わって弦が新しい旋律を出すところ(スコア6頁)。
まずVnだけで歌い始めるが、ここで与えられている dolce な表情の素晴らしさ。
そしてVa以下が加わった後半で、アクセントとクレッシェンド・デクレッシェンドを強めに付した、生き生きしたフレージング! 一瞬のことだが、鳥肌立つ思いがした。
 
また、ヨーロッパ室内管盤の特長である、バランスの良さはいつもどおり。
特に木管の動きがくっきり聴こえてくる点は、シベリウスの楽譜の秘密を開示するものだ。
中でも、第4楽章後半、弦を中心に第2主題が広々と再現されるところで(スコア133頁以下)、木管群は吹き荒ぶ風のような八分音符で上下する音型を繰り返すが、一瞬だけ、十六分音符になる(スコア137頁の最終小節1拍目の上昇音型)。
ここで吹き上げるフレーズの鮮やかなこと!
これを合図に、例えばCbがピツィカートで下からグイグイ突き上げはじめ、終結の高揚へ向かって,いよいよ盛り上がっていく部分だけに、まことに効果的。
 
ただ、手放しで礼讃しにくいのは、オーケストラの響きが明るすぎる点。
Obは相変わらず疑問符の付く音を出すし、金管の音色も、メタリックとは言わないが、楽器の音であって自然の音ではない。
 
なお、終結でのTimpの扱いはヘルシンキ・フィル盤と同じだが、編成が小さい分、TubaとCbの動きがくっきりしてきて面白い。
 
…ということで、ベストとしてはヘルシンキ・フィル盤を挙げる
ただ、3点の差が、これまででは最も小さい。
ボーンマス響盤の抒情味濃い表現や、木管鮮やかなヨーロッパ室内管盤、両方とも捨てがたいものがあり、特に後者は一度は耳にしていただきたいと願う。

 ついでに、2点を比較試聴。

ジョージ・セル(指揮)クリーヴランド管
シベリウス;交響曲第2番(Sony Classical)
昨年発売されたセルの初来日、1970年5月22日、東京公演のライヴ録音。
以前、クリーヴランド管の75周年記念自主製作盤でリリースされたこともあるが、音質はSony Classical盤が遙かに優れている。
とてもライヴとは思えない完成度に、とてもライヴらしい熱気が加わり、演奏芸術としては驚くべき高みに達している。
第1楽章で木管群による主題提示が終わって弦が新しい旋律を出すところ(スコア6頁)での熱い飛び込み。
第2楽章冒頭、fp を効かせたTimpの打ち込み。
"stringendo"指定や"con forza"指定などに敏感に反応した振幅の大きさ。
金管のパワーは圧倒的で、時に録音機器の限界さえ感じさせる。これを生で聴いたら、堪らなかっただろう。
 
問題は、こうしたアプローチをシベリウスの音楽として許容できるかどうか、である。
斉諧生の場合、シベリウスとブルックナーに関しては許容範囲が狭いことを自覚している。敬愛する名匠ポール・パレーについても、この曲の録音は受入不可能である。
セルの演奏も、あるいはドヴォルザークでも聴いているのかと、いささか戸惑いを禁じ得なかった。
 
チャールズ・マッケラス(指揮)ロンドン響
シベリウス;交響曲第2番(FUNHOUSE)
1988年7月録音の英IMP音源。国内盤は姿を消していると思う。
飛び抜けて素晴らしい瞬間こそ無いが、基本的には抵抗無く聴ける、リファレンス的な演奏であろう。
オーケストラも上手いし、木管の意味深い動きも、ちゃんと出してくる。管楽器の音色が英国風に軽めなのは、ちょっとマイナスだが。
問題なのは、マッケラスが、かなり楽譜をいじっていること。
特にはっきりしているのが、第4楽章終結、スコア2頁分でのTimp。
ベリルンド&ボーンマス響盤の項で述べたように、楽譜上は「ニ音」を連打するように書かれているのだが、マッケラスは、かなり大きく動かし、かつ、相当目立つように叩かせている。
外面的な効果という点では見事に「極まって」いるのだが、シベリウスの世界からは逸脱していると言わざるを得まい。

1月4日(金): 

 本業の「仕事始め」。
昔は半ドンだったものだが、世知辛い世の中、数年前から普通に仕事をする日になってしまった。それでも退勤後には今年最初の音盤屋廻り(自滅)。

ツァバ・シルヴァイ&ゲザ・シルヴァイ(指揮)ヘルシンキ弦楽合奏団
ドヴォルザーク;弦楽セレナード&シベリウス;性格的な小品ほか(FINLANDIA)
ヘルシンキ弦楽合奏団が、好きなドヴォルザークのセレナードを録音していたので購入。
シベリウスのop.100をフィルアップしてあるのも嬉しいところ。
更にエルガーチャイコフスキー弦楽セレナードをカプリング。
いずれもライヴ録音で、
ドヴォルザーク;1997年4月22日、ヘルシンキ
エルガー;1999年10月17日、マンチェスター
シベリウス;1999年10月21日、ハーグ
チャイコフスキー;1994年7月1日、ワシントン
 
ロレンス・エキルベ(指揮)アクサントゥス室内合唱団
プーランク;宗教合唱曲集(Accord)
音盤屋の中古コーナーで発見したCD。
フランスの合唱団体によるプーランクは以外にハズレが多いという説もあるが、エリク・エリクソンの薫陶を受けているこの団体ならば素晴らしいかもしれないと思い、買ってみた。
クリスマスのための4つのモテット
黒衣の聖母のための連祷
アッシジの聖フランチェスコの4つの小さな祈り
ミサ曲
悔悟節のための4つのモテット
と小品3曲を収録。

1月3日(木) 正月休み最後の日のまとまった時間を利用して、ずっと気に懸けていたコンテンツの追加・修正を行う。

 1967年に行われた、イーゴリ・マルケヴィッチのインタビューを訳してみた。イギリスBBCによる、セルゲイ・ディアギレフに関するドキュメンタリー番組のためのもの。試みにマルケヴィッチ、ディアギレフを語ると題してみた。  
 
 また、先日入手した資料本Michel Ruppli and Ed Novitsky" The Mercury Labels - A Discography - " Vol.IV (Greenwood刊)の情報をもとに、パレー・ディスコグラフィのデータを修正。
 
 音盤狂昔録平成13年12月分を追加。


1月2日(水): 

 今年の初荷はちょっと変わったCD。
 旅行から戻ってくると届いていたのだが、おそらく大晦日に配達されたもの。

ヴォルフガング・ベーレント(指揮)ケムニッツ・ザクセン響
グリーグ;組曲「ホルベアの時代から」ほか(自主製作)
ある時、WWWをサーフしていると、ケムニッツ・ザクセン響のWebpageに行き着いた。
立派な造りでShopのページまである。行ってみると、2点のCDが掲載されていた。
標記の曲は集めているので、このオーケストラのCDも買わざるべからずと思い、アンケートフォームに記入して送信。このあとどうなるのか…と思っていたら、日本の人からメールを頂いた。団員と交流をお持ちなのだそうだ。
先方も日本からオーダーが来るとは予想だにしておらず、吃驚しておられたそうで、結局、CDの受取りと代金の支払いも、その方に仲介していただいた。あらためて感謝申し上げたい。
この間のやりとりで気づいたのだが、このオーケストラ、実はアマチュアの団体。
もちろん悪いのはWebpageを斜め読みしていた斉諧生で、よく読めばそう書いてある。「クルト・マズアと特別な関係にあり云々」などの記述だけを目にして、勘違いしていたのだ。(苦笑)
CDは、2000年6月3日、ケムニッツ市民ホールでのライヴ録音。手作りのCD-Rだが、ジャケット・レーベルとも美しい仕上がりである。
標記のほか、
シベリウス;「フィンランディア」・「悲しきワルツ」
グリーグ;「2つの悲しい旋律」・「十字軍の戦士シグール」組曲
を収録。
なお、日本語によるオーケストラ紹介のページは→ここを押して
また、八王子フィルとの交流演奏会については→ここを押して

平成13年2月3日(土):ドメイン"www.seikaisei.com"を取得しサーバーを移転。「音盤狂日録」の過去ログを「音盤狂昔録」として公開。
平成12年9月10日(日):「提琴列伝」に、ミクローシュ・ペレーニを掲載。
平成12年1月8日(土): バッハ;無伴奏Vc組曲聴き比べを掲載。
平成11年10月24日(日): ラハティ交響楽団シベリウス・チクルス特集を掲載。
平成11年8月28日(土): 「逸匠列伝」にカール・フォン・ガラグリを掲載。
平成11年5月9日(日): 「作曲世家」にリリー・ブーランジェを追加。
平成10年5月5日(祝): 「作曲世家」にステーンハンマルを掲載。
平成10年2月8日(日): 「逸匠列伝」にルネ・レイボヴィッツを掲載。
平成9年11月24日(休): 「名匠列伝」に、アンゲルブレシュトを追加。
平成9年9月15日(祝): 「畸匠列伝」に、マルケヴィッチを掲載。
平成9年8月24日(日): 「名匠列伝」にカザルスを追加。
平成9年8月8日(金): 『斉諧生音盤志』を公開。


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