特集:ラハティ交響楽団 シベリウス・チクルス

指揮;オスモ・ヴァンスカ

ヴァイオリン独奏;ペッカ・クーシスト

管弦楽;ラハティ交響楽団

(コンサートマスター;ヤーッコ・クーシスト)

<来日期間;1999年10月8〜16日>


開催日・ホール 曲目・コメント
 
1999年10月8日(金) 交響詩「フィンランディア」Op.26
石川厚生年金会館 ヴァイオリン協奏曲ニ短調Op.47
  交響曲第2番ニ長調Op.43
  アンコール
    附随音楽『クオレマ」より「悲しきワルツ」(オリジナル劇音楽版)
    附随音楽『クリスチャン二世』より「メヌエット」
    附随音楽『クオレマ」より「悲しきワルツ」(現行版)
    附随音楽『ペレアスとメリザンド』より第10番「終曲」
  (斉諧生不参)
 
1999年10月9日(土) 交響詩「フィンランディア」Op.26
徳山市文化会館 ヴァイオリン協奏曲ニ短調Op.47
  交響曲第2番ニ長調Op.43
  アンコール
    附随音楽『クリスチャン二世』より「悲歌」
    附随音楽『クオレマ」より「悲しきワルツ」
    附随音楽『ペレアスとメリザンド』より第9番
    当日早朝の山陽新幹線トンネル壁崩落事故の影響で、急遽、広島からバス移動となり、会場入りが開演1時間前を過ぎていたとのこと。
      (斉諧生不参)
 
1999年10月10日(日) 交響詩「フィンランディア」Op.26
ザ・シンフォニーホール 冒頭のトロンボーンの厳しい音色で、もう「来たっ!」と感じ、ヴァイオリンがズシッとアクセントを効かせながら最初の旋律を歌っていく部分(30小節以降)で、演奏の成功は約束されたようなものだった。
後半でのチューバの活躍も見事。
  交響曲第5番変ホ長調Op.82(最終稿・1919年版)
    斉諧生的には、ほぼ理想的な演奏となった。
第1楽章でのオーボエの清澄な音色、トランペットの渋い音色に感心(練習番号E以降のモチーフ)。
このあたりから弦の最弱奏が威力を発揮(練習番号J以降)、それに乗るファゴットの吹奏ともども、憂愁の雰囲気が立ちこめる。
第3楽章終結、最後の2音におけるティンパニの打ち込みが、楽譜どおり前打音つきで、しかも見事に決まり、感動的だった。
  交響曲第2番ニ長調Op.43
    第2楽章の主題を吹くファゴットの寂のきいた音色に心を打たれた。
弦の最弱奏を駆使しながらの演奏だったが、やや盛り上がりの息が短くなる感じもあった。
ハードスケジュールが祟ったのか、金管が息切れした様子で、終結での昂揚感が今ひとつだったのは痛惜の極み。
  アンコール
    附随音楽『クリスチャン二世』より「メヌエット」
    附随音楽『クオレマ」より「悲しきワルツ」
 
1999年10月11日(休) 交響曲第1番ホ短調Op.39
すみだトリフォニーホール   第1楽章冒頭ではヴァンスカは指揮棒を振らず、それに応えてクラリネットが心のこもったソロを聴かせた。速めのテンポで、ヴァンスカの身振りにも気合が込められ、金管の厳しい咆哮が印象的。
第2楽章の主題は優しく撫でるような歌わせ方だったが、第3楽章は一転してかなり速いテンポをとり、木管楽器が大苦労をする一幕。
アタッカで入った第4楽章は、第1楽章同様、やや「あおり」気味にオーケストラを鼓舞しながら突進、弓の毛を切るヴァイオリン奏者が続出したほど。
テンポについては賛否両論があったが、斉諧生的にはテンションの高さが気に入った。
  交響曲第3番ハ長調Op.52
    この曲は理想的な演奏になった。
第1楽章の最初の盛り上がりでのトロンボーンのクレッシェンドが最高に効き(練習番号3の直前)、そのあとの第2主題を歌ったチェロの美しさ!
やはり弦の最弱奏が戦慄的に美しく(練習番号5)、第1主題再現後のホルンとトロンボーンによる盛り上がりは、最も感動的だった。
  交響詩「フィンランディア」Op.26
    もちろん模範的な出来だったが、大阪での演奏よりは少し力強さに欠けるように思われた。内面性を志向した演奏だったかもしれない。
  アンコール
    附随音楽『ペレアスとメリザンド』より第9番
    附随音楽『クリスチャン二世』より「メヌエット」
      コンサートに先立って、エヴァ・アルクラによるカンテレの演奏が行われ、チェンバロの音色をした小型のハープのような、幻想的・彼岸的な音楽を聴くことができた。
 
1999年10月12日(火) 交響詩「フィンランディア」Op.26
沼津市民文化センター
大ホール
ヴァイオリン協奏曲ニ短調Op.47
  交響曲第2番ニ長調Op.43
      (斉諧生不参)
 
1999年10月13日(水) 交響曲第5番変ホ長調Op.82(初稿・1915年版)
すみだトリフォニーホール   この版の日本初演
  交響曲第2番ニ長調Op.43
  アンコール
    附随音楽『クオレマ」より「悲しきワルツ」(オリジナル劇音楽版)
    附随音楽『ペレアスとメリザンド』より「メリザンドの死」
      (斉諧生不参)
 
1999年10月15日(金) 交響曲第4番イ長調Op.63
すみだトリフォニーホール    第1楽章冒頭の低弦のフォルティシモが実に玄(くろ)い音で素晴らしかった。チェロ独奏が並みの出来だったのは少し残念。
第2楽章でヴァイオリンが聴かせた熾烈なアクセントが素晴らしく(練習番号K)、第3楽章でも弦楽器の感動的なクレッシェンドを聴くことができた(練習番号E)。その裏の木管がもう少しくっきり鳴れば斉諧生的には理想だったが…。
第4楽章では鉄琴を使用したが、少し抑えめの音量であった(斉諧生的には大きめに響いてほしかったところ)。ヴァイオリンが低弦のピツィカートに乗って歌うところは感涙ものだった(練習番号M)。
  交響曲第6番ニ短調Op.104
    なぜか弦合奏の出来が精彩を欠き、普通のオーケストラ並みになっていたのが実に残念。
斉諧生的なポイントである、第1楽章でハープがリズムを打ち出してフルートが疾走感のある旋律を吹くところが、直前の金管とティンパニの響きにマスクされたのも痛かった(練習番号B)。
4番と7番に挟まれては、集中力が低下するのもやむを得ないのか…
  交響曲第7番ハ長調Op.105
    弦合奏は一転して上出来に戻り、冒頭のスケールのクレッシェンドから素晴らしい響きを聴かせた。
これまた理想的に素晴らしい演奏だったが、斉諧生的にはトロンボーンのモチーフは、もう一段、くっきりと吹かせてほしかったところだ。
  アンコール
    附随音楽『クオレマ」より「悲しきワルツ」
    附随音楽『ペレアスとメリザンド』より第8番
      皇太子殿下・同妃殿下御臨席。
通常は休憩後に入場されることが多いそうだが、開演時からお成りだった。
 
1999年10月16日(土) 交響詩「エン・サガ」Op.9(初稿・1892年版)
すみだトリフォニーホール   この版の日本初演。
当然といえば当然だが、「譜面を音にしてみた」以上の好演。
  ヴァイオリン協奏曲ニ短調Op.47
    冒頭の独奏ヴァイオリンは力を抜いた、柔らかい美しい音で主題を奏で、一挙にホール全体を魅了した。
CDでの演奏とは異なり、かなり「あおる」感じの陶酔的な演奏で(音楽も演奏姿も)、技術的に粗い面も多少残っているが、楽譜からの逸脱を厭わず「ツボ」を突いた積極性は評価したい。
賛否あろうが、とにかく面白い演奏であった。
管弦楽も、音を厳しく打ち込んだ、素晴らしいもの。
  アンコール
    バルカスカス;『パルティータ』より「トッカータ」
    シベリウス;「ロマンス」Op.78-2
    バッハ;無伴奏Vnパルティータ第3番より「メヌエット」
    盛大な喝采に応えて、3曲もアンコール。
2曲目の「ロマンス」が実演で聴けるとは思わなかった。演奏も実に美しく、感涙。
3曲目のバッハは「様式」を思いっきり無視した、好き放題の演奏で、内心、笑い転げてしまった。
とにかく、やんちゃで楽しいヴァイオリニストだ。

なお、「ロマンス」は、ピアノ伴奏の原曲から、ヤーッコ・クーシストが管弦楽版に編曲したもの。
  交響曲第5番変ホ長調Op.82(最終稿・1919年版)
    第1楽章冒頭のホルンの主題が実に見事、主題再現(練習番号M)は、その直前に素晴らしいクレッシェンドを伴って最高の快感だったし、コーダを導く金管の咆哮(練習番号P)も素晴らしかった。
第2楽章の憂愁味は少し後退したように思う。
第3楽章では冒頭のリズムがよく、モチーフを提示するチェロとコントラバスの響きも素晴らしかった。コーダへの音楽の膨らみ、盛り上がりは感動的だったが、終結でのティンパニは大阪公演の方が決まっていた。
  アンコール
    附随音楽『ペレアスとメリザンド』より第9番
    附随音楽『クリスチャン二世』より「メヌエット」
    附随音楽『クオレマ」より「悲しきワルツ」
    交響詩「フィンランディア」Op.26
    千秋楽とあって、アンコールも4曲を連発。
特に「フィンランディア」は、「スオミ魂」爆発とでも言おうか、熱く燃えたぎるような演奏で、終結への追い込みも最高に盛り上がった。
これをうけて聴衆もスタンディング・オーヴェイション、延々と喝采が続き、一度引っ込んだ楽員が、全員、舞台前縁に並んで挨拶する場面となった。
 

総 論 斉諧生が聴いた4日間・延べ12曲の中では、やはり後期の交響曲に優れた演奏が集中し、第3番・第4番・第5番(両日とも)・第7番が、非常に満足できる演奏であった。
 
個々の解釈はさておいても、その「音」「響き」が、まさしくシベリウスの音楽そのものであり、それに包まれているだけでも至福の心地だった。
 
既にBISレーベルに全曲を録音しているが、明らかに今回の実演が上回っている。そうそう再録音も望めないとは思うが、いつの日か、このコンビによってシベリウス;交響曲全集の決定盤が生み出されることを願いたい。
長所 弦合奏の見事さを第一に挙げたい。ボウイングが良く揃っているばかりでなく、ときに見せたダウン・ボウの連続等、よく磨き込まれている。また、「必殺のピアニッシモ」(笑)と呼ばれた最弱奏は、スーパー・オーケストラも顔色なからしめるもの。ただ弱いだけでなく、美しく、しかも良く通る音なのである。
なかんずく第1ヴァイオリンの上席4人は名手揃いと見え、「エン・サガ」終盤(練習番号P)のソリの美しさなど、素晴らしかった。
 
ついでは管楽器の音色感。金管の厳しさ、木管の寂びは、まことにシベリウスにふさわしいものであった。これは、ある面で風土と結びつくものかもしれない。
 
ティンパニも上手かった。特に第5番(大阪)の終結和音での打撃は神業で、どんなCDでの演奏をも凌駕していたろう。奏者自身も会心の笑みを湛えていたという。
短所 ヴァイオリンの後ろの方のプルトや、ヴィオラについては、いくぶん鳴り方が悪いように感じられた。
木管については音程の不揃い等を指摘する声もあり、一般的な技量としては、やや落ちるものがあったのかもしれない。フルートにはもう少し表現力がほしいところだ。
また、曲によって出来不出来のムラが感じられ、第2番(大阪)や第6番では、いくぶん、体力・集中力に不足を覚えた。
アンコール アンコールには「ペレアスとメリザンド」「クリスチャン2世」など、珍しい管弦楽曲から魅力的なナンバーを用意したところが心憎く、いずれも繊細で美しい演奏だった。
ポピュラーな「悲しきワルツ」も、手垢を洗い落とした、素晴らしいもの。もちろん、白眉は、何といっても最終日の「フィンランディア」だったが。
コンサートマスター このチクルスで最も光っていたのは、ひょっとしたら指揮者よりもソリストよりも、コンサートマスターだったかもしれない。
 
最初のうちは「ソリストがコンサートマスターを兼ねているの?」などと、聴衆の認識も薄かったのだが、日を追うごとに、感心する人が増えていった。入場時の拍手もだんだんクレッシェンドしていったような気がする。
 
椅子に背をつけず、背筋をピンと張った、凛とした演奏姿は実に美しく(ルックス的にも金髪美しい北欧系の美形なのである)、また、毎日、弓の毛を必ず2本以上切ってしまう力演ぶり。
加えて、ときに聴かせたソロの素晴らしさ! とりわけ交響曲第1番の第1楽章では(練習番号L)、ごく短い中で、美音と表現力をキラリと輝かせた。
 
大阪の楽屋口で指揮者を尻目に彼のサインを貰ったり、最終日に指揮者と同じ大きさの花束を渡す女性ファンが見られたのも、むべなるかな。
(彼の画像は→ )
 
なお、折から、BISレーベルから彼の独奏によるシベリウス;初期Vn曲集が発売された。曲も魅力的なので、ぜひお聴き願いたい。
Misc. ・有料パンフレット、シンフォニーホールでは800円だったが、すみだトリフォニーでは1,000円で販売していた。
・パンフレットには明記されていないが、現地調達のエキストラを、打楽器1名(11日)とバス・クラリネット1名(15日)、採用していた。
・コントラバス5人のうち、4人までがフレンチ・スタイルだった。
・弦楽器の配置は1stVn-2ndVn-Va-Vcだが、ハープをヴィオラとチェロの間に置いていたのは異色。

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