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2005年05月26日

テレフセンを聴く

久しぶりにコンサートへ。
3年前広島響とのショスタコーヴィッチ;Vn協第1番の名演を聴いた、アルヴェ・テレフセンが再来日してのコンサート・ツアー、最終日の神戸公演@松方ホールである。
普段だと平日に神戸まで出かけることは厳しいのだが、幸い、この週の後半は本業が都合をつけやすい時期になったのと、チケットをお譲りくださる方がいらっしゃったのとで、聴きに行くことができた。
 
このホールは、6年前かぶとやま響を聴いて以来。
ウィーン・フィルのラルス・ストランスキー(Hrn)が独奏と指揮で客演し、フォルカーさんがエキストラ出演されたりという演奏会だったことを思い出す。
 
今日は1階が8~9割の入り。2階は客を入れなかったのだろうか。
ただしさる音楽鑑賞団体の催しだったので、楽章間で拍手が起こるなど、ちょっと残念。
 
曲目は、
ベートーヴェン;Vnソナタ第7番
スヴェンセン;ロマンス
ブル;ポラッカ・ゲッリエラ
ヌールハイム & テレフセン;独奏Vnのためのカデンツァ
ラヴェル;ツィガーヌ
後半はピアノ三重奏の編成で
グリーグ;アンダンテ・コン・モート
ショスタコーヴィッチ;P三重奏曲第2番
というもの。
共演はホーヴァル・ギムゼ(P)、ヤン・エリク・グスタフソン(Vc)。
ギムゼ(1966年生れ)は録音も出ており、これからのノルウェーを代表するであろうピアニスト、またグスタフソン(1970年生れ)も力量充分の名手とのこと。
 
ステージに登場したテレフセン、髪の毛はすっかり白いのだが、無造作に弾き始めたヴァイオリンには年齢の陰などさらになく、立派の一言に尽きる音楽。
1曲目のベートーヴェンは、第1楽章から古典の格調と、憧れや愁いといった情感の横溢とが両立していて感嘆三嘆。
「アダージョ・カンタービレ」の第2楽章では、木質の音色による優しい子守歌に、ただただ聴き惚れるのみ
暗い情熱に満ちた終楽章も、聴き応え充分。
独墺派の正統からは少し外れた音楽づくりだと感じたが、それこそが「北欧の香り」(パンフレットから)という所以だろう。
 
続くスヴェンセンは、元来管弦楽伴奏の作品だが、これはギムゼのピアノが素晴らしく、前奏では漆黒の宇宙にまたたく星の神秘的な輝きを思わせた。
独奏の旋律は題名どおりのロマンティックな歌ふしなので、そちらがちょっと聴き劣るほど。
もちろんテレフセンにとっては手の内に入った小品、文字通りの北欧の抒情を堪能できた。
 
初めて聴くブル作品は、技巧的なショーピース(ちょっとパガニーニの楽曲を連想させる)。
これも鮮やかに弾ききった。
 
テレフセンに献呈されたVn協のカデンツァを独立させたヌールハイム & テレフセン作品は、ヴァイオリンの音の諸相を描き尽くそうとしたような多種多彩なテクニックの連発。
ヴァイオリンでは足りないのか、足でリズムを踏んだり口を鳴らしたり(笑)、という多彩さ。
 
前半の白眉はラヴェルで、まさに完璧。
鈍色(にびいろ)がかったヴァイオリンの音色から、フランス系ヴァイオリニストとはまったく違った音楽が展開された。
 
後半から登場したチェリスト、グスタフソンは、まず巨体に圧倒され(チェロが小さく見える)、ついで朗々たる音色と完璧な技巧に舌を巻いた。
未完に終わったP三重奏曲の第1楽章となるはずだったグリーグ作品、なるほどピアノ・トリオとしては少し書法に問題がある感じがした。
三重奏曲というより、ピアノと「8本の弦を持つ弦楽器」のための二重奏曲という趣。
とはいえ、ちりばめられたグリーグの旋律美やピアノのグランドマナーには聴くべきものがあり、埋もれてしまうには惜しい音楽と思われた。
 
結論から言えば最も素晴らしかったのは最後のショスタコーヴィッチ
寂寥感漂う第1楽章、力感たっぷりの第2楽章を経て、第3楽章冒頭のピアノの凄まじい響き!
弔鐘を思わせる和音の連打なのだが、その中から滲み出る色彩感に圧倒された。ギムゼ、やはり素晴らしいピアニスト。
それを受けるチェロの濡れた音色もまた素晴らしい。
更に圧倒されたのは終楽章で、泣き笑いの行進がやがて号泣となり、そして涙も凍る終結に到達する
合奏の力強さ、緊密さ、とにかくショスタコーヴィッチの音楽だけを感じさせる没我の演奏だった。
もうアンコールは聴きたくないくらいだったが、聴衆も盛り上がっており、第2楽章が2割増くらいの超高速で演奏された。これはさすがにヴァイオリンも乱れ気味。

投稿者 seikaisei : 2005年05月26日 22:59

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