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2005年09月10日

第二次世界大戦(初期)のブダペシュト音楽体験

徳永康元『ブダペストの古本屋』(恒文社)
かねて評判を聞いていた書籍をAmazonを通じて福岡の古書店から購入、読了した。
著者(1912~2003)は長く東京外国語大学で教鞭を執ったハンガリー語・ハンガリー文学を専門とする言語学者で、1940~42年にブダペシュトに留学していた。
既に第二次世界大戦が始まっていたが、まだ戦火の及ばぬハンガリーで古書店に通っていた時期の回想や、戦後二十数年後に再訪したヨーロッパなどでの古書蒐集譚などをまとめた著書である。
 
徳永氏は、母方の祖父が明治期の薬学者柴田承桂、とはすなわち作曲家柴田南雄先生と従兄弟どうしの関係になる。(前記Webpageでの承桂博士の肖像写真、南雄先生を髣髴とさせるところがある。)
この関係については、本書でも、
早くから音楽に親しんでいた母方の従兄弟たち(作曲家になった柴田南雄君はその一人だが)の影響で、中学生の頃は神田のセコハン屋に日参するレコード・ファンだった。
と記されているところ。
 
どんな分野であってもマニアの蒐集譚は斉諧生の興味を惹くところだが、古書の話はさておいて、肝心の音楽の話題では、
リストの直弟子エミール・ザウアー(80歳近かった)のリサイタルを聴いたこと
ステージに上がるまでは人に手をひかれ、よぼよぼの隠居の爺さんとしか見えなかった。
ところが、ひとたびピアノをひきはじめると、両手だけがまるで独立した別の生きもののように鍵盤の上を走りまわり、すばらしく華やかな演奏をきかせるので、そのコントラストに私は何だか不気味な感じがして来たくらいだった。
亡命を決意したバルトークがハンガリーへの告別の意味を込めて開いた演奏会で、彼のピアノ演奏を聴いたこと(指揮はヤーノシュ・フェレンチク)
ピアニストとしてのバルトークは優れたバッハ弾きだときいていたが、たしかに彼のバッハには独特のふしぎな迫力があった。
このときのバッハの演奏の激しい気魄と、一見弱々しくさえ見える小柄なバルトークの異様に鋭い眼光とは、当時の私によほど強烈な印象をのこしたとみえ、あれから三十数年が過ぎた今でも、その情景をまるで昨日のことのようにまざまざと思い浮かべることができる。
当時無名のシャーンドル・ヴェーグとは個人的に親交があったこと
ヴェーグは一向なりふり構わぬ呑気そうな男だったが、ヴァイオリンの音はすばらしく綺麗だった。
繊細な美しさという点では、ヴィーンのシュナイダーハンに匹敵するものといえよう。
あたりが主要な内容となっている。
 
そのほか、レハールの自作自演や、1941年のモーツァルト没後150年記念にウィーンで開かれた音楽祭を聴きに行ったことなど、興味深い曲目・演奏者が列挙されており、後者ではクナッパーツブッシュ指揮の 『魔笛』『ドン・ジョヴァンニ』や、フルトヴェングラー指揮のレクイエムが登場する。

投稿者 seikaisei : 2005年09月10日 14:33

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コメント

お、クナーが出ているとあれば、この本買わざるべからずですね!早速注文します。

投稿者 ミン吉 : 2005年09月15日 11:28

ミン吉さん、こんにちは!
 
> クナーが出ているとあれば、
ほんとに「名前が載っている」程度ですけれど、
それでもよろしゅうございましょうか…?
 
同じ著者の近刊、『ブダペスト日記』も気になっています。
また内容が確認できましたらレポートいたします。

投稿者 斉諧生 : 2005年09月15日 23:54

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